第7章 NOVE
「えーっと・・・。」
目が泳いでいるのが自分でも分かった。
私、どうしちゃんたんだろう。
ばくばく・・・ばくばくばく・・・・
壊れた様に鳴る心臓。
なにがなんだっけ?
あたまが真っ白になってなにも考えられない。
そんな空白にまた、
「うん。」
と、さっきと同じトーンで、彼はうなずく。
私の動揺などとは正反対の冷静な彼は、
鼻先に軽く握った手を当て、横を向いてくすくすと、笑った。
笑われた?
と首をかしげると、彼はまた声を殺したようにくすくすと静かに笑う。
それからすぐ、
「ごめん。店に用があるんだろ?」
と看板を指差す。
震えそうになる声を抑えて、
「・・・はい。」
とだけ、やっとの思いで返事をすると、
彼は私の横をすり抜け、
階段を何段か上がった後に、振り返って
その低くて優しい声で、
「おいで。」
と言って微笑んだ。