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メメント・モリ

第5章 水の音


「それで?その男はなんていったんですか?」


ぼとっと水面に泡が落ちてきた。


丸く落ちた泡の淵からさぁーっと散らばるように泡はお湯に溶けていく。

まるで何か恐ろしいものからでも逃げていくような勢いだな・・なんて雪菜は思った。

逃げ遅れた真ん中の白い塊を手で掴んでお湯の中に引き込むとあっという間に消える。

・・・・・。

「私はすごく悪い子だって・・」

頭を洗ってくれている黒崎君の手がとまった。

「早瀬さんを悪い子とイコールでつないだら世の中の基準がおかしくなりますよ」

彼は手をまた動かして、それから?と私を促した。

ホテルのお風呂。

入浴剤を入れたお湯は乳白色でいいにおいがする。

黒崎君は服を着たまま、シャツと、ズボンの裾をまくってバスタブの淵に座っている。

「私はいろんな男に好かれたいんだって言って・・」

特に私の言葉に返事はなく、流しますよ。という声とともに頭の上からシャワーがかけられた。

ホテルのシャワーは水圧が強い。

頭皮の強い刺激とたっぷりの泡が首筋をなでて落ちてくる感触がそれぞれ心地悪くて、黙って耐える。

男の人に好かれるのが、嬉しい?

相手が自分の好きな人でなくても?

そんなことない。

好きな人・・・

そんな人はいない・・。

人を好きになったことなんて、ない。


ジャガイモが言ってたな。

寂しいね。って。

そっか、私は・・世に言う“寂しい女”ってやつなのか。

心の中がぐるぐるとして、自問自答。

水が顔を流れていく。

息がしにくい

・・苦しい。

・・・苦しい。

なんか、心も、苦しい。

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