第4章 そこから見えているセカイ
ほとんど無音だったから分からなかったけれどエンジンがかかったんだろう、車内の表示が一斉に青く点灯して幻想的な空間になる。
「・・・同じ方向なんじゃないんですか?」
自分でも驚くよう冷たい声が出た。
酔いも回っているし、今さら初対面の声を使う必要もない。
座り心地のいい助手席にすっぽりと収まった雪菜は恐怖を酔いに任せてどこかへと押しやった。
「だいぶ酔ってるでしょ。」
優しく聞いてくる声に、いやらしさは感じられない。
「そうですね、少し酔ってます。」
全面的に嫌な気持ちを出してやりたかったのに、あたし少し怒ってますけど、程度の強さ。
「どっちに行けばいいかわからないとずっとここにいることになるよ?」
それは困る、無言で家の近くのコンビニをナビに打ち込んでやった。
車は動き出す。
「そうそう、最初からそういう素直でいい子でいてね。」
とげのある言い方。
「いい子ってなんですか?」
なにも考えずに聞き返していた。
「だって君、本当はすごく悪い子でしょ?」
ははは、と乾いた笑いが飛んでくる。
訳が分からない、
けれど、そこには確かに悪意を感じられた。
「・・・・・。」
「誰も気づいてないとでも思ってたの?」
「・・・・?」
「俺、結婚しているんだけど、俺の奥さん浮気してるんだよね。
腹が立つからさ、俺も今回こうしてこういう場に久しぶりに出てみたんだけど、出てよかったよ。君にも会えたし。」
いきなりの話の流れについていけない雪菜を置き去りにして、まるでドラマのあらすじを説明するかのように淡々と彼は話す。
「なんで奥さんが浮気をしているって知っているかなんだけれどさ、俺は、見えるんだよ。その人の後ろめたいことが・・ね。」