第10章 どこにも行けない想い
「・・・ほら、勉強やめるって言われても困るし。」
「そ・・だね。」
彼女たちは何を思うだろう。
一生懸命に頑張るのだろうか。
彼に好きになってもらえるように・・・
・・・何を・・・
何をがんばるのだろう。
そしてその努力はそもそも・・報われる日が来るのだろうか。
彼の落とし穴に落ちてしまった少女たちを想像して胸が痛む。
「まぁ、でも。好きになることはないけどね。」
静かな声で神代君は言う。
「・・・・。」
「俺には・・・
好きな人がいるから。」
・・・・。
私は何も言葉が出てこなかった。
この人の手は握れない。
私だって、そう思ってる。
そう・・・彼女たちに対しての彼と同じだ。
私も、落とし穴に落ちて空を見上げてる哀れな・・・
そして・・・貴方も。
―――車が家の目の前で止まった。
「着いたぞ。・・そうだ、ライン入れたらちゃんと返事しろよ。」
「あ、うん。分かった。」
「黒崎もどれだけ電話掛けても出ないし・・ほんとに2人とも携帯気にしなさすぎなんだよ。」
「うん。気をつけます。」
ごちそうさま。といって手を振る。
車が角を曲がって見えなくなった時、思わずため息が漏れた。
「・・・・・なんか・・・疲れたな。」
玄関のドアを開けようとする。
ガチャといってドアは開かなかった。
「・・・そっか、今日もお父さん帰らないんだった。」
雪菜は独り言をつぶやいて、鞄から鍵を取り出す。
その瞬間急に、背後から抱き締められた。
・・・え・・・?
恐怖に息がとまる。
声が・・でない・・・。