第10章 どこにも行けない想い
「なにしてんの?
声くらい出さないとそのまま襲うよ?」
・・・黒崎君だ。
分かった途端、膝の力が抜けてへなへなとその場で座り込んだ。
「びっくりした?」
と、聞いてくる黒崎君に、
雪菜はまだ声も出ずに、ばしばしと彼の肩を叩く。
「待ち伏せしてみました。」
と笑う彼をよく見ると、いつもの眼鏡が無い。
だからか。
なんだかいつもと雰囲気が違う。
「神代とのデート、どうでした?」
「デート・・じゃないし。」
「2人で飯食ってこんな時間に帰ってきたらそういう風に言いません?」
「・・・・。」
なんだか、とげのある言い方。
「でもまぁ、そんな顔して帰って来たってことは楽しくなかった・・ってところかな。」
黒崎君はくすくすと笑ってる。
「・・・楽しくなかったわけではないけど・・ちょっとだけ疲れた。」
「・・・そう思って癒しに来ました。」
「?」
「とりあえず、寒いんで中入れてください。」
こんな風に、黒崎君が家で待ち伏せするなんて初めてのことだった。
いつもと違う雰囲気の彼に少し戸惑いながらも、私は彼を家へと案内した。