第10章 どこにも行けない想い
「ここ?」
「ちがう。なんでそこなんだ?」
「だって・・・全然分かんない・・・」
「とりあえず、その前のところに入れてみて。」
「・・・・・ここ?」
「っとに、初めてじゃないだろ?」
「そうだけど・・・。」
神代君は盛大に溜息をついてみせる。
「今の問題、授業でもやったんだけど。」
「ホントに苦手なんだって、スペイン語」
「苦手だからって、単位落とせないだろ。
ほら・・、ここ、スペル違ってる。」
反対側に座っているくせに、私のノートにさらさらと綺麗にスペルを書いて見せる。
「神代君はさ、頭がいいからいいけど・・」
「コウって呼んでってライン送っただろ。」
そうだった。
黒崎君のバイト先に行ったあの日、送られてきたラインはそういう内容だった。
―――「名字じゃなくて、名前で呼んでほしい。」
そう言われても、今までの呼び方と変えるっていうのも難しいのに、神代君の場合は変に意識するからなかなか呼びにくい。
「なんか慣れなくて・・・」
「アイツは?」
「あいつ?」
「黒崎のバイト先の。」
「あ・・・、セイ?」
そういえば、セイはすぐに呼び捨てに慣れた。
セイ、って呼びかけると、
ん?、といってからゆっくり振り返るのが・・・
なんだかとても嬉しくて・・・
「あいつ、ちゃんと送ってくれたのか?」