第9章 月に願いを・・・
―――カラン カラン・・
セイは30秒ほどドアの前で考えた後、そのドアを開ける事を決めた。
客として戻ってきたセイを、リカはまるで芸能人が来たようなはしゃぎぶりで出迎える。
「ちょっと!!こんなこと初めてじゃない!?セイが客で来るなんて!!」
「・・・たまには客として飲んでみようかなと思って。」
さっきまで、雪菜が座っていたカウンターに座る。
長いする気はないのでコートは着たままだった。
「・・・。やだっ!明日雪でも降るんじゃないの!あ。雪はフツーよね。2月だし。逆に桜!?桜咲いちゃう!??」
・・・・・。
「・・俺、帰ります。」
「きゃぁぁー!!うそうそ!!ちょっとまって!!この後、どこか一緒に飲みに行くわよ!となれば、今居るお客さん今日は帰ってもらいましょ。」
「いや、別に・・・」
リカはそういうと他の客のところへ行ってしまった。
「あれ?セイさん、なんで居るんすか?」
暖簾からひょいとハルが出てくる。
「たまには客で飲もうかと思って戻ってきた。」
「めずらしいですね。」
「そうだ、ちゃんと送ってきたよ。」
「ありがとうございます。道中変な事言ってませんでしたか?」
「言ってなかったかな。」
そう言うそばから笑ってしまった。
酔っているからなのか普段からそうなのかは分からないが、一生懸命に話す姿を思い出す。
「言ってたんですね。」
ブーンブーン・・と携帯のバイブレーションの音がする。
「電話?奥で出てきたら?」
「いいです。出たくない電話なんで。」
「そっか。」
それでもしばらく音は鳴りやまない。
カウンターの下で、携帯の電源が切られた。