第9章 月に願いを・・・
そしてセイは急にパッと手を離した。
「手はさ、空に伸ばしている時よりも、繋いだ手が離れた時のほうがきっとずっと苦しい。」
……。
まだ、手を差し出したまま突っ立っている私の頭をぽんぽんと撫でる。
「願いはさ…二つの願いが一緒になるまでは、手は繋がない方がいいかもしれないね」
そう言って寂しそうにほほ笑んだ彼の顔は、誰よりも優しい人に見えた。
ぼんやりと見える…
絶対的な黒い闇。
そこにぽっかりと誰も知ることのない彼の痛みが白く輝いている。
月のような人だな。
と思った。
温かい缶コーヒー、暖かい彼の手から離された私の手は、それまで気にもしなかった刺すような冷たい空気を感じている。
「…ほんとだ。」
離された手の痛み。
私にはここから想像しかできない。
・・・この痛みを。
・・・・ここからの苦しみをセイは知っているの?
・・・知りたい。
できるなら、それを癒せたらいいのに・・・
はっと、我に帰る。
私、きっと…この月のような人に手を伸ばすようになる。
私は、この人を幸せにしたい。