第9章 月に願いを・・・
駅まででいいと言ったけれど、セイは「約束したから」と同じ駅で一緒に降りた。
願いを叶えてあげられる人は居ないと言われたことを電車の中でずっと考えてた。
―――そんなことはない。
・・・こんな短時間の間にこんなにもセイの存在が気になっている自分が居る。
「さっき、願いを叶えてあげられる人は居ないって・・・。」
「うん?・・あぁ。」
「私は、居ると思います。」
「居るの?」
セイは笑った。
「はい。」と真剣に答えると、彼は笑うのをやめる。
「・・・そうだな。
もしかしたら、俺に願いを叶えて欲しい人はいるかもしれない。」
冷たい空気が街路樹を揺らして過ぎていく。
セイの声は透き通って空に響くようだった。
私はじっと聞く。
「反対に、・・・俺の願いを叶えて欲しいって人ができるかもしれない。」
どきっ・・と胸が脈を打った。
「けど、俺はどちらであっても手は握らないんだ。」
その言葉を聞いたとき、
彼が持っていたどことない儚さのような、影がやっと見えた気がした。