第8章 落とし穴
「セイは、好きな人、いる?」
「いない、かな。」
間に耐えきれずに、質問した事は1番聞きたい事だった。
いない、と言われて少し安心している自分がおかしい。
まだ出会ったばかりだって言うのに、何を期待してるのだろう。
「そうなんだ・・・・。
私、ずっと好きな人が欲しかったんです。」
「・・・うん?」
「こうやって手を伸ばすでしょ。」
ぐっと空に手をかざしてから、
あ。私、少し酔ってますね。と笑うと、
続けて。とセイは笑う。
「この手を誰かに握ってほしかったんです。」
「うん。」
「でも、誰でもいいわけではなくて。その誰かという存在も欲しくて。」
「・・・うん」
自分でも信じられないまさかの一目惚れによって…今まさにその誰かという存在が見つかりそうなんだけど…
でも、それはまだ実感としてまでは沸いてない。
「・・・・・でも反対に、自分がその誰かに当たるんだって人が居る事があったとしたら…って、、ちょっと考えてみたんです」
少し考えてから、
「うん」
と同じ波長でセイは頷く。
「・・・・・・・私が手を繋いだら・・1つの願いは、その人の願いは叶うのかな・・ってちょっと考えちゃいました。」
「願いが叶えてあげられる訳だね・・・」
「・・・・偉そうですね。私。・・・・・けれど、本当に、本当に・・・ずっとこの手を握ってくれる人が欲しくて・・」
ずっと苦しかったから・・・
・・・・・・・苦しさも、それが満たされたらどれだけ幸せだろうという想いも・・・
分かるから。
「…例えばそうなったら、ユキは叶えてあげるの?」
そう言ったセイは優しく微笑みかける。
ただ目は何かを訴えるようで・・・でも私にはまだ分からなかった。