第16章 過去
暫く客間で待っていると、「炭治郎、入っていい?」と声がした。
返事をすると、「ごめんね、お待たせ。」と、汚れを落として部屋着に着替えた勇姫が入ってきた。
炭治郎の向かいに座る勇姫。
開口一番で謝るつもりだったのだが、いざ勇姫を前にすると言葉が出ない。
話しにくくしている炭治郎を見て、笑いながら「どうぞ。」と促してくる勇姫。大丈夫だから話してごらん、そう言ってくれている気がした。
――…ああ、勇姫のこの感じ。久しぶりだ。本当に。この優しさが、俺は好きなんだなぁ…
炭治郎は、背筋を伸ばして座り直した。
「勇姫。この前、君に酷い事を言ってしまった。」
「うん。」
「酷い態度もとってしまった。」
「うん。」
「怖い顔で睨んだ。」
「うん。」
「本当に、ごめん。」
「……うん。いいよ。」
あっさり許される炭治郎。
「え…?いいのか?」
「正直、なんで炭治郎がああなったのか解かんなくて、酷く落ち込んだ。」
「…うん。」
「悲しかった。」
「…うん。」
「嫌われたかと思った。」
「それは、ない。あり得ない。」
「うん。それなら、いいの。
会いに来てくれたから、嫌われた訳じゃないんだって解ったから。いいの。」
そう言って、勇姫は笑った。
「多分、私も何か良くないことしたんだよね。炭治郎が嫌がることを。」
「いや、それは勇姫が気にすることじゃない。俺が勝手に嫌な気持ちになっただけだから。」
「善逸の寝床に座ったことも「あ、あれは駄目だ。以後気をつけて。」
「はい…ごめんなさい。」
少し二人の間に沈黙が流れる。
「これで…」勇姫が話し始める。
「仲直りってことでいいかな?」
「……勇姫が、いいなら。」
「私は、いいよ。」
「じゃあ、俺も異論はない。」
ふぅー…と二人共大きな息を吐いた。
「もう、喧嘩は懲り懲りだ。」
「本当。寿命が縮むわ。もう勘弁。」
「仲良くしよう。」
「うん。」
二人で、いつものように笑い合った。
幼子のような嫉妬で始まった喧嘩は、これまた幼子のような言葉で仲直りしたのだった。