第16章 過去
千愛のお布団発言に激しく動揺した二人だったが、大善が仕切り直す。
「ところで、竈門くんは今日は何しに来たんだ?何やら慌ただしい感じの訪問だったな。」
「あ、えっと…それは…」
目が泳ぎ始める炭治郎を見て、「…理由によっては、さっきの話は全部反故にする。」と睨みを効かされ、炭治郎は勇姫より先に大善に謝ることになった。
正直に、自分の嫉妬で勇姫のことを傷付けた、と述べる。
怒られると思ったが「あいつは昔からよく男に言い寄られる。いちいち気にしてたらもたない。」と言ってもらえた。
「恋愛は時に思考をおかしくする。冷静でいるのは難しい。」
「そういう…ものなのですね。」
「いろいろ経験して、君も強くなれ。」
「はい、精進します。勇姫を傷付けてしまい、すみませんでした。」
素直に謝る炭治郎。
初めこそ言い淀んだものの、一度腹を括ったらしっかりと立ち向かう。真っ直ぐな少年だ。
「……勇姫が君を選んだ理由が解る気がするよ。」
「え…?」
「勇姫が君をどう思ってるかは知らんが、仇討ちが終わったら、俺はあいつを嫁にいかせたいんだ。どうしても、嫁にいかせる。いいか、必ずだ。」
――それはつまり、仇討ちで死なせないということ。
「……はい、解りました。俺が貰いにいきます。必ず。」
「頼んだ。」
好きでもない男を、支援者に選ぶはずがない。
大善は勇姫の気持を確信していたが、本人が自覚しているかどうかはわからない。恋愛事に関してはめっぽう疎い勇姫だ。そして相手はこの純朴極まりない少年。
これは時間かかりそうだな、と思った。
そこへ「只今帰りました」と勇姫の声がした。仕事が終わったようだ。
「帰ってきたな。」
大善が立ち上がり、炭治郎も続く。
急いで帰ってきたのか、玄関で草履を脱ぐ勇姫は息が上がっている。
「叔父さん、帰宅しました。」
「ご苦労だったな。怪我は。」
「ありません。大丈夫です。」
「勇姫、お疲れ様。」
「炭治郎。ごめんね、お待たせ。」
「いや、気にしないでくれ。」
「着替えてから、客間に行くね。」
勇姫は自室へと走って行った。
「…話しをするのはいいが、あまり遅くなるなよ。」
大善にガッツリ釘をさされて、炭治郎は部屋に戻った。