第16章 過去
「今の勇姫は、防御…はあまりしませんが、相手の出方を見たり、相手の攻撃を躱したりすることが多いと思いますが…。
むしろ勇姫の攻撃は、隙をついた最小限なものという印象があります。」
「うん、そうだな。
あいつ、鍛錬のやり過ぎで高熱出して死にかけたことがあるんだ。その時、千愛が勇姫をぶっ叩いたいて泣きながら叱ったんだ。『もっと自分の命を大切にしなさい』って。自分が傷付くことで周りも傷付くということを初めて知ったんだろうな。
俺が何度言っても聞かなかったくせに、千愛の平手打ち一発であいつの剣技は変わったんだ。」
「…千愛さん、凄いですね。」
「ああ、巽家の女だからな。竈門くんも気をつけろよ。勇姫の頬、一週間くらい腫れてたからな。」
そう言って、二人で笑った。
「そこから、元の明るさも取り戻していったように思う。武術の腕も伸び、穏やかな日々が続いた中で、育手という男が勇姫を連れて行ってしまった。いや、勇姫が付いていってしまったんだがな…」
大善から悲しみの匂いがする。
「勇姫の中で、鬼を殺すことや仇討ちをすることは全く消えていなかった。押し込めていただけだった。」
「今となっては、あの子の大願である仇討ちを止めようとは思わない。そのためにあの子がどれだけ血反吐を吐いてきたか痛い程知っているからな。」
「だがな、…死なせたくないんだ。どうしても。そう思ってしまう。」
ぽつり、ぽつり、と話す大善。炭治郎は静かにそれを聞いていた。
「竈門くん。」
「はい。」
「勇姫を助けてやって欲しい。」
「…はい。」
「あの子は危うい。早く家族のところへ行きたいと、無意識に思っているかもしれない。」
「…行かせません。」
「うん。そうしてくれ。」
大善は満足そうに頷いた。
「そして、君も絶対に死ぬな。君が死ねば勇姫も死ぬ。あの子の祖父はそうやって死んだ。」
「!…そうなんですか。」
「協力者が死ねば技は崩れ、失敗する。
例え技が成功したとしても、それが原因で君が死んだら、勇姫は己の命を断つだろう。」
確かに、勇姫の性格からしてその可能性は高い。
「…わかりました。俺も絶対に死にません。」
炭治郎は決意に満ちた表情で、大善を見た。