第16章 過去
「…竈門くん、だったかな。話がある。上がってくれ。」
男性に声をかけられ、炭治郎は「おじゃまします」と草履を脱いで家に上がった。
―…この人が、勇姫の親戚か。叔父さんって呼んでたな。
炭治郎は部屋に通され、下座に座る。
「足、崩してもらって構わない。まだ身体が本調子じゃないようだしな。」
男性に言われて「ありがとうございます」と胡坐をかく。
勇姫と話がしたくてやって来ただけの炭治郎は、まさかこんな事になるとは思ってなかったので、緊張と居心地の悪さで一杯だった。
当の勇姫は任務に行ってしまい、よくわからん怖そうな雰囲気のオッサンが目の前にいて、自分を探るように見てくる。
なんだこの状況…と冷や汗を流した。
「お茶をお持ちしました」障子が開き、女性が入ってくる。叔母さん、と呼ばれていたこの女性は、勇姫と雰囲気が似ている。勇姫の血縁はこっちかな、と思いながら「ありがとうございます」と頭を下げる。
女性が去ると、男性が口を開いた。
「…君が『協力者』だというのは、本当なのか。」
鋭い目が炭治郎を突き刺す。
「はい。勇姫に、そう言われております。仇討ちを手伝って欲しい、と。」
「……そうか。まあ、飲め。」
お茶を勧められ、「頂戴します」と言って啜る。男性もお茶を飲む。
ここまで走ってきたので、喉を潤す水分が嬉しい。
男性は空になったそれぞれの湯呑に、茶器からお茶を注ぐ。
「……信頼の呼吸。詳細は知っているのか。」
「いいえ。失敗したら勇姫が死ぬ、ということしか聞いておりません。それは本当なのでしょうか。」
「本当だ。巽一族に伝わる技で、強い故に反動の大きな技なんだ。あの子の祖父は信頼の呼吸を使い、命を落としたと聞く。」
「そうですか…。」
俯く炭治郎。
「ただ、死ななかった者が居るのもわかっている。全ては協力者次第なんだ。
だから巽の者は命懸けで協力者を探す。文字通り、自分の命を懸ける相手だからな。」
命を懸ける相手。その重い言葉に炭治郎はゾクッと震える。
「君が、勇姫の選んだ協力者…か。」
男性は、湯呑のお茶を一気に飲んだ。
「…詳しく教えていただけませんか。
俺は、絶対に勇姫を死なせたくないんです。」
炭治郎は男性を見つめて、そう言った。