第15章 喧嘩
「じゃあ、私、行くね。」
羽織をひらりと揺らして勇姫が振り向いた。
「今夜も、仕事なのか?」
「うん。ここの近くでね。単独任務。」
「勇姫ちゃーん!気を付けてねぇ!」
「うん、ありがとう。」
またくるね、と言って勇姫は去っていった。
格の近い、というか、あまりの実力の差を見せつけられた気がして、炭治郎は落ち込んだ。
勇姫は任務の合間を縫って、ちょこちょこ面会に来てくれた。
おまんじゅうなどを持ってくる事もあるので、屋敷の皆からも歓迎ムードだ。
今日も門の方から勇姫の匂いがした。
出迎えに行こうと炭治郎が嬉しそうにベッドから降りたとき、「巽!巽じゃないか!」と高揚した男の声がした。
「巽、那田蜘蛛山ではありがとう。君に手当をしてもらえなかったら、俺は死んでいた。本当にありがとう。」
「ご無事で何よりです。」
門の付近で二人が話す声が聞こえる。
ただ、よく聞こえない。炭治郎は部屋を出て、こっそり庭に移動した。
「怪我の具合はいかがですか?」
「ああ。だいぶいい。今日は胡蝶様に診てもらいに来たんだ。会えて嬉しいよ。…ずっと会いたかったんだ。」
何やら炭治郎にとって、好ましくない展開になりつつある。
「……俺、前にも巽に助けられたことあって…、その時から俺、ずっと巽のこと好きなんだ…!」
なんとなく嫌な予感はしていたが、それがものの見事に的中した。愛の告白を聞いてしまった炭治郎は心がざわめいた。
「俺、本気なんだ。本気で巽のこと、…愛しく思ってるんだ。俺の恋人になってください。」
男の真剣な声に、固まる炭治郎。
「…申し訳ございませんが、貴方の気持ちには答えられません。」
静かに勇姫の声が聞こえた。
「…誰か慕う男が、いるのか?」
「……ええ、まあ。」
「水柱…か。」
「さて、どうでしょう。」
否定しないのかーっ!と叫びだしたくなる炭治郎。そこは「違います」と一刀両断にして欲しかった。
ただ、相手が義勇なら勝ち目がないと思ったのか、男は「わかった。」と言い、しょんぼりしながら去っていった。
水柱の効果は絶大のようだ。勇姫から安堵の匂いがする。
炭治郎は複雑な思いを抱え、部屋へ戻った。