第14章 那田蜘蛛山
炭治郎たちも任務に出発し、那田蜘蛛山で鬼との戦いに死力を尽くしていた。
―…強くなっている。
炭治郎は自分でもそう思った。
藤の花の屋敷での鍛錬は、自分の体にちゃんと身に付いていた。
だが今回は、敵が、強い。これまでとは段違いだ。
しかも三人が離れ離れにされたことで個人戦となってしまい、苦戦を強いられている。
別地で闘う仲間を気にしつつも、炭治郎は目の前の敵、下弦の伍に手一杯だった。
累の糸は硬く、炭治郎の刀は根元で折れてしまう。
身体は傷を負い、体力は削られ、限界はとうに超えていた。
でも、…死ぬわけにはいかない!
俺には守りたいものがある。仲間を、禰豆子を、そして―――勇姫との約束を!
己の全てを出して生まれたヒノカミ神楽。折られた刀は禰豆子の血と相まって爆血刀へと変化する。
炭治郎の叫びと共に切り落とされる、累の首。渾身の一撃だった。
勇姫はこの一撃を炭治郎に駆け寄りながら見ていた。
――…切れてないっ!間に合えっ!間に合えっ!
湖での鬼殺をし終えてからの連続任務。身体には相当な疲労が溜まっている。
でも、そんなことは関係ない。足が取れてもいい。急げ!急げ!走れ!
炭治郎に襲いかかる、更なる恐怖。
累の血鬼術、殺目篭が発動する。炭治郎はなんとかしようとするが、動けない。
それでも諦めずギリギリのところで思考だけは続けていた炭治郎の前に、閃光のように紺色の羽織が現れた。
ばらりと破られる、累の血鬼術。
「…っ、はーっはーっ、ぜっ、ぜぃ、ぜぃ、…はぁはぁ」
殺目篭を一撃で破った勇姫は限界を超え走った代償を受け、息を荒くして片足を地についた。
が、その目はしっかりと炭治郎を捉え、生存を確認している。
「―……勇姫、…か?」
朦朧とする中で、炭治郎も勇姫を認識したようだ。
勇姫はその問に答える事は無く、すぐさま回復の呼吸に切り替え、炭治郎を背に庇うように立ち上がった。禰豆子の位置も確認し、一瞬の内にその目は敵へと向けられた。
「俺たちが来るまでよく堪えた。あとは任せろ。」
義勇の声がした。