第13章 信頼の呼吸
「あ、そうだ!」
炭治郎の腕の中で勇姫が声を出した。
照れ隠しなのかなんなのか…とにかく折角の良い雰囲気が台無しである。
「私、炭治郎に渡したいものがあったの。」
「渡したいもの…?」
炭治郎が身体を離すと、勇姫は懐から赤い紐を取り出した。「見て、私とお揃い」と自分の結紐を指差して笑う勇姫。
お揃い、といっても色が同じなだけで、勇姫の紐よりだいぶ細くて短い。
「お守り。昨日編んだの。良かったら付けてもいい?」
「ああ。」
少し戸惑う炭治郎だったが、返事をすると「やったぁ」と喜ぶ勇姫。
俺は括れる程髪の長さがないぞ…と思っていると、「ちょっと失礼」と言って、炭治郎の左足首に緩く巻き始めた。
にこにこと嬉しそうに紐を巻き付ける勇姫。指が足に触れるのがくすぐったい。
「よしっ」といって紐の結び口をきゅっと縛ると、目を閉じ「どうか、炭治郎をお守りください」と祈った。
足首に巻かれた細い紐。
「嫌だったら、取っちゃっていいからね。」
そう言って勇姫が微笑む。
そういえば勇姫の鴉も同じような紐を付けていたな、と炭治郎は思う。きっとあれも彼女が巻いたのだろう。
「ありがとう。大切にする。」
単純に嬉しかった。
勇姫にとって、自分は特別なのだと、自惚れていいのだろうか…
それともあくまで、ただの協力者なのか…
「ううん。私が炭治郎に渡したかっただけだから。付けさせてくれてありがとう。」
さて、と立ち上がる勇姫。
「明日早いからもう寝るね。」
炭治郎も立ち上がる。
「ああ、…そうだな。」
「炭治郎、死なないでね。」
「ああ。勇姫も。絶対に死なないでくれ。」
「約束。」「約束だ。」
二人は拳をコツンと当てて微笑み合った。
「…ね、炭治郎、ちょっと屈んで。」
「ん?こうか?」
少し膝を曲げて炭治郎が体勢を低くする。
その瞬間、ふわりと近付く影。
炭治郎の額に柔らかく甘い感触。
「…またね。」耳元に少し照れたような勇姫の優しい声がした時、彼女の姿はもうなかった。
炭治郎は一人、口付けられた額を抑えながら屋根の上で盛大に赤面した。
ーーーーーーーーーーーー
勇姫が炭治郎に贈ったのは、ミサンガの様な物とお考えください〜