第13章 信頼の呼吸
「…ありがとう。」
勇姫の胸中は、巻き込んでしまう申し訳なさが渦巻いていたが、承諾してくれた事にお礼を述べた。
そして、左腕の袖を捲くって炭治郎に向けた。
勇姫が自らこの傷を人に見せるのは初めてだった。
「これは、家族が殺された時に付けられた傷。
十六になったら私を食べる、その目印だって言ってた。」
月明りに照らされる、細い腕に刻まれた大きな古傷。
勇姫は傷を見ながらギリッと奥歯を噛んだ。
「醜い傷だけど、これが私の支えなの。
絶対にアイツを屠る。それが、私の大願。」
悲痛な表情の勇姫。傷がズキズキと痛み始めた。
袖を戻そうとした時、炭治郎の両手が傷を包み隠した。
「…これは、悲しみの傷だよ。醜くなんてない。」
そう言って、傷をそっと撫でる。まるで、この憎悪の象徴である三本の傷を慈しむかのように。
常にひんやりと感じていた腕に、初めて血が通った気がした。
そして炭治郎はその手を右手で握り、自分の方に引き寄せた。力に引かれ、そのまま勇姫は炭治郎の胸の中にすっぽりと収まった。
背中に炭治郎の腕が回る。
「一人で立ち向かわなくて、いいんだ。戦う時は俺も一緒に行くんだから。」
「…うん。」
「俺を頼ると決めたんだろ?」
「うん。」
「じゃあもうそんな顔するな。
俺が、勇姫の支えになる。」
「…ありがとう。頼りにしてる。」
炭治郎の胸に頬を寄せ、その鼓動を聴きながら勇姫は笑顔になった。
左腕の傷は、もう痛くなかった。