第13章 信頼の呼吸
「信頼の、呼吸……?」
聞いたことのない呼吸に、炭治郎はただ呟いた。
「巽一族にしか使えない、…呼吸、というより、禁術に近いものなの。」
「禁術…?それを使えば十二鬼月でも倒せるのか?」
「倒せる。多分。まだ未熟な私がアイツを倒すには、これしかない。」
勇姫はじっと正面を見つめる。
「ただ、この呼吸には条件があるの。」
「…条件?」
「協力者が必要なの。
呼吸の発動条件は、己が最も昵懇(じっこん)とする相手と共に連携して呼吸を使うこと。
術中、少しでも互いの信頼が揺らげば、技が自分に跳ね返り、私は――…死ぬ。」
炭治郎は背筋が凍るのを感じた。
「…それを、俺と?」
「私は、ずっと探してたの。
下弦の参の居場所と、…協力者を。」
勇姫は炭治郎に目を向けた。
「…私は、炭治郎となら、この呼吸を使えると思った。貴方を危険に晒すのは気が引けるけど、炭治郎しか居ない。そう思うんだ。
例え失敗しても、協力者が死ぬことはない。
今、答えを出さなくていいから、頭の片隅で考えてみて欲しいの。」
「…俺で、いいのか。」
自分の弱さを思い、眉をよせる。
冨岡さんの方が…―という情けない思考が頭をよぎる。
炭治郎のその思考が解ったのか、
「協力者に必要なのは、階級とか技の精度じゃないの。信頼の呼吸は心が原動力。想いの強さが全てなんだよ。」と言い、
「炭治郎しか、考えられない。」
と迷いなく答えた。
――…こんなに嬉しいことがあるだろうか。
こんなにも自分を信頼してくれている。
勇姫の為なら、俺も命をかけられる。
黙ってしまった炭治郎に、申し訳なさそうに勇姫が声をかける。
「急にこんな事言われても、困るよね。
ごめん。あの…、無理なら無理で「無理じゃない、俺がやる。」
きっぱりと言い切る炭治郎。
「…え?」
「俺に、協力させてくれ。」
「……いいの?」
「信頼の呼吸…、それがどういうものなのか、俺には解らない。でも、俺に何か出来ることがあるのなら、何だってやる。」
「炭治郎…」
そうだ。冨岡さんじゃない。この役だけは、誰にも譲らない。
俺が、勇姫を助けるんだ。
「俺が絶対に勇姫を死なせない。二人で鬼を倒そう。必ず。」
炭治郎は勇姫を見つめて、誓った。