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信頼の絆【鬼滅の刃】炭治郎

第12章 涙


夜。
炭治郎は布団の中、眠れずにいた。

――…勇姫に会いたい。
でも、明日に向けて彼女は集中しているだろう。命懸けの任務にいくのだ。心も最善の状態に仕上げる。
わかってる。でも、会いたい。顔が見たい。
この屋敷で過ごす最後の夜だ…


そこへ、気配がする。

炭治郎は無言で起き上がる。
寝ている二人を起こさないよう静かに障子を開けると、裏庭に勇姫が居た。
いつもより低い位置で結ばれた髪と、赤い結紐が揺れている。

「…炭治郎、ちょっと、いいかな」
声を潜めて勇姫が聞く。
黙って頷く炭治郎。障子を閉め、縁側に出てきた。

「ねぇ、屋根の上行こう。」
悪戯っぽい笑みを浮かべる勇姫に少し驚いたが、炭治郎も頷く。

ひょいと一足で屋根まで飛び上がる勇姫。
炭治郎もよじ登る。
屋根の棟に座る勇姫。膝を抱えてちょこんと座るその姿は、とても小さく思えた。
炭治郎も勇姫の右側に胡座をかいて座る。

「屋根の上だと、星が近いね。」
空を見上げながら勇姫が言った。
「そうだな。掴めそうだ。」
炭治郎も空を見る。 

「…夜にごめんね。」
「俺は構わないが、…夜に男の部屋には行かないんじゃなかったのか?」
「あ、本当だ。行っちゃった。駄目じゃん。」

二人で笑い合った後、
「あのね…」と勇姫が口を開く。
が、後が続かない。
炭治郎が勇姫に目をやると、彼女は膝を抱えたまま目線を下げ、口を結んでいる。

少しの間そのまま刻が流れた。
炭治郎は、また空を見ながら続きを待った。 

勇姫はまだ悩んでいた。
口にしてもいいのかどうかを。

頭の中に、師匠の言葉が蘇る。

――…誰を選ぶかはお前の心が教えてくれる。自分の判断を信じろ。
もしこれを使うことが出来たなら、お前は刹那の間、最強の剣士になる…―――


隣からの匂いが、迷いから決意に変わり、勇姫がゆっくりと話し始めた。

「炭治郎に、お願いがあるの。
……私の仇討ちを、手伝って欲しい。」

炭治郎は勇姫を見た。
彼女は真っ直ぐ前に目を向けていた。その表情に、揺るぎない覚悟が見える。


「私のもう一つの呼吸――《信頼の呼吸》で、下弦の参を倒したい。」


小さな声だったが、静かな夜に鈴のように響いた。
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