第12章 涙
翌朝。
勇姫は朝から出掛けた。
出発の前日ということもあり、炭治郎たちは勇姫の邪魔にならないよう、気にはしつつも関わらないようにしていた。
勇姫は屋敷に帰ってきた後も、部屋の掃除をしたり荷物を纏めたりと忙しそうにしていた。
そして、夕方になった。
夕餉が終わって少し経った時、
「炭治郎、伊之助、善逸、居る?」
と男子部屋に声がかかった。
炭治郎が障子を開ける。
部屋の中で三人は筋トレをしていたようだ。
勇姫は部屋に入り、入口付近に座った。
「予定通り明日の朝に出発するよ。
早いから、見送りはいいからね。」
勇姫がそう言うと、「えー!見送りに行くよー!」と善逸。炭治郎も、見送るに決まってるだろという顔をしている。
「ありがとう。その気持ちだけ受け取っとく。」
少し寂しそうに笑う勇姫。
「あのね。
出発する時に見送ってもらうと、そのままもう二度と会えなくなっちゃう気がするの。お婆さんにもさっきお礼を伝えに行ったよ。
だから、皆ともここでお別れさせて。」
ね?と笑う勇姫を見て、三人は黙った。
いつもこうして、誰の目にも触れないまま一人旅立って任務に向っていたのか。
「…わかった。」
炭治郎が言い、善逸が頷き、伊之助はふんと鼻を鳴らした。
「ありがとう。」
勇姫は居住まいを正した。
「竈門炭治郎様、我妻善逸様、嘴平伊之助様。
短い間でしたが、私(わたくし)と懇意にしていただき、心より感謝致します。
皆様のご無事を、お祈り申し上げます。」
手をついて、スッと頭を下げた。
丁寧に謝礼を述べる勇姫を見て、三人も背筋を伸ばした。
ふふっと笑うと何時もの口調で、
「皆に出会えて本当に良かった。楽しかった。
絶対にまた会おうね。
皆、大好きだよ。」
顔を上げてそう言うと、善逸が泣き、伊之助はほわほわし、炭治郎は泣きそうな顔で…笑った。
「気をつけてね」「何かあったら呼べ」「勇姫なら大丈夫だ」口々に声をかけてもらい、嬉しそうにする勇姫。
「じゃ、皆、またね!」と部屋を出ていった。
さよなら、じゃなくて、またね。
三人の心に、寂しさだけではなく希望も残して、足音が遠ざかっていった。