第12章 涙
炭治郎が井戸から汲んできた水に手拭いを浸し、冷たくなった手拭いを目にあてる。
ひんやりとした感覚が、目の周りの熱を奪う。
視界が閉ざされた中、「大丈夫か。」と聞こえる。
「大丈夫。ありがと。
ちゃんと冷しとかないと、明日目蓋が物凄い事になるから。へへへ。」
泣き止んだ勇姫は、少し涙声のままいつものように話す。
禰豆子は炭治郎の膝の上で寝ている。
「ごめんね。私、前も炭治郎の前で泣いたよね…情けないなぁ…」
自嘲気味に呟く。号泣してしまったことを凹んでいるようだ。
「俺もよく泣くよ。」
「そうなの?」
「ああ、しょっちゅうだ。…善逸もすぐ泣くし。」
善逸は泣きすぎ、と言って二人でくすっと笑った。
「…前に、頼って欲しいって言ったろ。
だから、こうして泣いてくれるのは、嬉しいんだ。気にするな。」
勇姫の頭をよしよしと撫でる。
再び溢れた涙が、手拭いに吸われていった。
空を見上げながら、「綺麗な星だな…」と炭治郎が言った。
温くなった手拭いを水にちゃぷんと浸して、勇姫も空を見る。
「本当だね。」
「…俺の家族も、あそこにいるのかな…」
目に星を映しながら、寂しげに呟く炭治郎。
「…いるよ、きっと。ちゃんと見ていてくれるよ。」
「勇姫の妹と俺の兄弟、仲良くしてるかな。」
「それは、どうだろ。うちの子たちかなり我儘だよ。」
「うちも、なかなかだぞ。」
「あはは、じゃあ喧嘩してるかもね。炭治郎のところは何人?」
「弟が三人、妹が一人。」
「多いねぇ。なら、むこうは賑やかだ。楽しそう。」
桶の中で手拭いを絞り、また目にあてる。
妹たちが炭治郎によく似た子ども達と遊ぶ姿を想う。
「…俺は、勇姫のお父さんに怒られるかな。」
「え?何で?」
「娘を泣かせるなって。」
「私が勝手に泣いたのに?」
それは理不尽だわ、と笑う勇姫。
炭治郎は見たことのない勇姫の父親に、心の中で告げた。
――…泣かせてしまい、申し訳ありません。
この先会えなくなるけど、勇姫が沢山笑っていられるよう、俺なりに尽力すると誓います。
貴方の娘さんを…――心から愛しています。
「炭治郎、どうかした?」
急に黙った炭治郎に声をかける勇姫。
「宣言してたんだ。」
空で一つ、星が光った。