第12章 涙
庭を見ている勇姫の雰囲気が変わった。
禰豆子も自分を抱く腕の力が強くなったので、不思議そうに勇姫を見上げた。
「…二人とも、いつも私の後ろを付いてきてね。ちっちゃい手を広げて…抱っこって…甘えてくるの…。
私も小さかったけど、お姉ちゃんだから頑張って面倒みてた…な。」
話しながら、思い出が鮮明に蘇る。
抱き上げた時の重さ、繋いだ手の温かさ。
「喧嘩もいっぱい、した…っんだけど、…ほんとに、大事で…愛しくて…、わた、しの…宝物、で……」
泣き顔、寝顔、拗ねた顔、そして…笑顔。
沢山の思い出が次々と勇姫の頭に浮かぶ。
「…な、のに、……わたし、…守っ…て、あげら、れ、なか…た。…父さ…も……母、さんも、み…んな……居なく、なっ…ちゃった……」
涙が頬を伝う。泣いていることに気付いていないのか、次々に溢れる涙が途中で拭われることはなく、ぽたりぽたりと落ちた。
「…もっ…と、ちゃんと、伝えれば、よかっ、た。…大好きだよ、って…、なんで…もっと……」
言葉が紡げなくなってきた勇姫を、膝の上の禰豆子ごとふわりと温かいものが包んだ。
「…辛かったな。」
耳のすぐ側で、炭治郎の声がする。
優しく、でもしっかりと抱きしめてくれる炭治郎の腕の中で勇姫は、堰を切ったように声を上げて泣いた。
炭治郎は勇姫が泣き止むまでずっと抱きしめていてくれた。
雲は晴れ、空には星が輝いていた。
ーーーーーーーーーーーー