第12章 涙
その日の夜。
縁側で涼む勇姫。
そこへ、
来るだろうな…と思っていた人物が現れた。
勇姫は炭治郎に顔を向ける。
気配が一つじゃないことに気が付いた。
「あれ、炭治郎、もしかして…」
炭治郎の後ろから女の子がひょこっと顔を出した。
「ああ。禰豆子だ。さっき起きたから連れてきた。
勇姫に会ってもらおうと思って。」
「勇姫の出発前に起きてよかった」と言って禰豆子を見ながら微笑む炭治郎。
出発、という自分の言葉に胸がズキリと痛んだ。
「わぁ!可愛いねぇ、こんばんは。」
勇姫がニコッと笑って声をかけると、禰豆子は炭治郎の後ろから出て、ててて、と勇姫の前まで走ってきた。
じぃ…っと勇姫を見つめる大きな瞳。
確かに鬼の目だ。でも、とても綺麗な目。
そして禰豆子は勇姫の首元にぎゅぅっと飛び付いた。勢いに押され後に傾くも、「おっ…と」と体勢を立て直す。
勇姫にしがみつく禰豆子はとても嬉しそうな顔をしている。
よいしょ、と禰豆子を自分の膝の上に乗せる勇姫。
「おい、禰豆子…」と止めにくる炭治郎に「いいよいいよ」と声をかける。
抱っこしてもらった禰豆子は、首から手を離し、今度は勇姫の胸元に顔を寄せ、にこにこしている。
「ふふふ、ほんと可愛いねぇ、禰豆子ちゃん。」
「…禰豆子は、人間が家族に見えてるらしいんだ。」
「そうなの?」
「ああ。…でも、初めての人に、こんなに甘えるのは珍しいな。勇姫のこと、誰に見えてるのかな…禰豆子に姉さんは居ないんだけどな…」
炭治郎は勇姫の隣に座り、禰豆子を優しい眼差しで見つめた。
「そっか、家族に…見えてるんだ…」
勇姫も禰豆子を見る。
そこへ、庭から声が聞こえた。…気がした。
勇姫しか知ることのない、勇姫にしか聞こえない声。
勇姫はゆっくりと庭に顔をむけた。
ねーたん、だっこぉ…
ふふふ……
そこに姿は、無い。
ねーたんどこいくの…ゆいもいく…
ずるいずるい、ひなもいく………
でも、確かに聞こえる。
ねーたん、あのねー…
ねーたん…ねーたん……だいしゅき………
「……私にも、妹がいたの。」
勇姫が静かに口を開いた。