第12章 涙
全員の傷がだいぶ治ってきた。
午前中は合同鍛錬、午後からはそれぞれで鍛錬。
そんな日々が続いていた。
そんなある日の夕方。
男子部屋でいつものように皆でご飯を食べていた時。
ふと、箸を置き「…来た。」と席を立つ勇姫。
裏庭へと続く障子を開ける。
鎹鴉が勇姫の腕に止まった。
「指令だ。場所は那田蜘蛛山近くの湖。冨岡義勇との合同任務だ。出発は明後日の朝。準備をしておけ。」
勇姫の鎹鴉、夜平が指令を持ってきた。
ついに、この日が来た。
「了解。ありがとう。」
勇姫がそう言うと夜平は空へと飛んでいった。
「……だってさ。」
障子を閉め、ふふっと笑いながらと三人を振り向く。
膳の前に戻り、夕餉の続きを食べ始める。
「と、いうことになったので、明日の鍛錬は無し。私、朝から出かけるね。ご飯は別でよろしく。」
はー…と善逸が溜め息をつく。
「勇姫ちゃん任務に行っちゃうのかー…寂しくなるなー」
「長く休みすぎたくらいだよ。」
「もう完全に治ってるのか?」
「んー、ほぼ、かな。体力がちょっと微妙だけど、明日最終調整すればいけるっしょ。」
「さいしゅー…何だよそれ?」
「山の中での瞑想。仕事前は絶対やるの。」
任務に前向きな勇姫。
炭治郎は自分の気持ちだけが置いていかれているように感じた。
「冨岡さんと、合同なんだな。」
「みたいだね。」
炭治郎の胸中は複雑だ。
「まあ、あの人と一緒なら大丈夫だろ。」
善逸の言葉に、確かに、とも思う。義勇と一緒に居れば勇姫の生存率は上がるだろう。
でもその分、鬼も相当強いはず。
それに…
義勇と勇姫が一緒にいるのは嫌だ、と思う。
「気をつけろよ。」
炭治郎が心配そうに勇姫を見る。
「うん。ありがと。」
微笑む勇姫。
「俺らにもそろそろ指令来んじゃないの?ねえ!やなんだけど!やだやだ死ぬ死ぬーひいいー!」「つえぇ奴と闘いてーな!俺は強くなったからな!」
善逸と伊之助が騒ぎ回る中、炭治郎は同じ部屋で笑う勇姫を、共に過ごせるこの時間を慈しむかように見つめた。
明後日の朝、勇姫はこの屋敷を出ていく。
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