第11章 得手不得手
炭治郎と別れた後、しばらくは高鳴る鼓動に戸惑っていたが、どうやら疲労が勝ったようで思いの外勇姫はしっかりと眠る事ができた。
炭治郎も同様で、しっかりと眠り、朝は善逸や伊之助より早く目覚めた。
障子を空けて、朝日を浴びて「んー…っ!」と伸びをする炭治郎。
そんな音で善逸も目覚める。
「…おはよ。」
「あ、おはよう、善逸。」
振り向いた炭治郎の顔は何だか晴れ晴れとしていた。
―…炭治郎、夕餉ん時から何か変な音がしてたけど、夜に部屋出てってから妙に元気になったな。
勇姫ちゃんとこ行ったんだろうなって思ってたんだけど、……何かあったか?
「今日はいい天気だ。」
空を見ながら嬉しそうな炭治郎。
「今夜は綺麗な星が、見えるかな…」
眩しそうに外を見ている。
……コイツ、さては自分の言いたいこと全部言ってスッキリしたんだな。
そんな顔してら。
言いたいけど言えない。
そんな足踏みしているような音が、炭治郎からなくなっていた。
「…勇姫ちゃんに好きって言ったのかよ。お前、好きなんだろ。勇姫ちゃんのこと。」
布団に寝転んだまま片腕で頭を支えている善逸が、これでもくらえと言わんばかりの直球で聞いてきた。
善逸からの思わぬ攻撃を、油断していた炭治郎はモロにくらう。ビクッと反応をする炭治郎。
「えっ…?」
「お前の態度見てれば解るわ。」
バレていたとは。
驚く炭治郎。
「そ、そうなのか…いつから気付いてた…?」
「ずっと前。確信したのは一昨日の、夜。」
「そうか…善逸は凄いな。」
いや、気付かねぇ方が阿呆だろ、と善逸は思った。
「……で、どうなんだよ。言ったのか?」
「言って、ない。」
今度は善逸が驚いた。予想と違った。
「俺はまだまだ弱いからそんな事は言えない。言うつもりもない。」
「…くそ真面目かよ。」
「いいんだ。でも、他に言いたかったことは言えたから。」
照れながら笑う炭治郎。
「…誰かに盗られちまっても、知らねぇぞ。」
善逸がプイッと反対を向き、また布団に包まると、
「選ぶのは勇姫だからな。そうなったらその時だ。」
と背中から炭治郎の声が聞こえた。
……よく言うぜ。盗らす気なんて、さらさらねぇくせに。
炭治郎の音を聞いて、善逸は秘かに笑った。
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