第10章 寝顔
「…よしっ!」
勇姫は満足そうに日輪刀を鞘にしまった。パチンと音がする。
手入れが終わったようだ。
「さて、と。」
勇姫は立ち上がる。
「どこか行くのか?」
「走ってくる。」
「朝も沢山走ってきたんだろ。」
「んー、まだまだ全然走り足りないよ。
身体鈍りすぎだもん。びしびし鍛えなきゃ。」
「そろそろ仕事も来るだろうしね。」
勇姫のその言葉に、炭治郎の心がズキリと痛んだ。
「じゃ。」と勇姫は部屋に戻っていった。
炭治郎も廊下を渡り、自室へ向った。
勇姫は替えの白シャツとスボンに着替え、紺の羽織を来て、夜平と共に山へ向った。
「山越え、十往復かな。」
夕暮れ間近まで、勇姫の山道爆走鍛錬は続いた。
部屋に戻った炭治郎は刀を持って裏庭に出て、真剣な顔で素振りを始めた。
「強くならなきゃ、強く、強く…」
二人は違う場所で、同じ事を呟いていた。
日が暮れる前に、勇姫は藤の花の家に帰ってきた。
その姿は汗だくで、擦り傷まみれ。
「只今戻りました」と言ってよたよたと歩く。
「うきゃぁー勇姫ちゃん!どしたのどしたの大丈夫なのぉー?」と善逸が駆け寄ってきた。
「ただいま、善逸。大丈夫だよ。疲れただけ。」
汗がつくよ、と言っても、いいの!と肩を貸してくれる善逸。部屋の前まで歩くのを手伝ってくれた。
お婆さんにお湯をお願いすると、畳の上に倒れ込んだ。
「走りすぎたぁー…」
そのまま少し寝ていたようで、「お湯をお持ちしました」というお婆さんの声で目覚めた。
ぼんやりする頭でお礼を言い、身体を拭く。
擦り傷の出血は止まっているが、脛が赤く腫れ上がっている。
「あーあ…」と苦笑いを零す。
七往復目くらいの時に、跳び損ねて大きな石にぶつけたからだ。疲れてくると足が上がらない。まだまだ体力が戻ってないと痛感する。
清拭と着替えを終えると裏庭に移動し、立て掛けてあるタライにお湯を移して、汚れた二枚の白シャツを洗う。
洗ったシャツを梁に引っ掛けると、勇姫は縁側に寝転んだ。
暗くなりはじめた空に向って、
「父さん、母さん、ゆい、ひな…今日は私、結構頑張った…よね。」と呟いた。
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妹の名前
ゆい→ゆいこ
ひな→ひなた