第9章 この気持ちの名前
じっと勇姫を見つめる炭治郎。
「勇姫は強い。
…俺も勇姫みたいに強くなりたい。」
「………私は、強くない。」
そのハッキリとした否定の言葉を受けて、「…え?」と反応する炭治郎。予想外だったようだ。
勇姫はそんな炭治郎に、無言で自分の持っていた日輪刀を持たせた。そして「…ね?」と苦笑いする。
炭治郎は自分の手の中にある日輪刀の軽さに驚いた。薄黄色の刀身を光らせる美しいその刀は、ギョッとする程に軽い。
「私は強くない。…速いだけ。」
炭治郎の手から日輪刀をそっと取り「内緒ね」と少し悲し気に笑う。
「…伊之助の勘は当たってたんだな。」
「ん?」
「力勝負になれば、勝てるって。」
「おー、大当たり。」
きっと、勇姫は泣きながら血の滲むような努力をしたのだろう。
でもどうしても望む程に力が強くならなかった。
先程の打撃も、手加減されたとはいえ軽いものだった。俺たちみたいな相手じゃなければ通用しないだろう。
だからこそ身につけた、あのとびきりの速さ。
「……いや、やっぱり強いよ。」
「あはは、譲らないなー。」
「勇姫は強い。」
「…ありがとう。」
頭カチコチ少年に対して、根負けして笑う勇姫。
彼女は、この刀より重い竹刀であれ程の動きをみせた。
自分の弱点を認め、逃げずに向き合い、違う形で補った。そこにもまた想像を絶する努力があっただろう。
そして、悲しみだけを内に秘め、こうして笑顔を見せる勇姫……
――抱きしめたい。
そう思ったが、今の自分にそんな資格はない。
「俺、もっと強くなる。」
決意に満ちた表情で、炭治郎は勇姫を見つめた。
「俺の大切な人を、この手で守れるように。」
勇姫は炭治郎の言葉に対して、素直に「うん。頑張れ。炭治郎なら大丈夫。」と微笑んだ。
炭治郎の心に一つの確信が生まれ、それが概ね一方通行だと判明した瞬間だった。
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炭治郎→ヒロイン
の図式となりました!