第8章 鍛錬
炭治郎は地面を思い切り蹴って、自分に出せる最高速度で勇姫の首右側を目掛けて突きを繰り出した。
無論、難なく勇姫はその突きを躱す。
単純な攻撃だが、何かあるな…と勇姫は集中を緩めず、炭治郎を注視し続ける。
その瞬間、炭治郎は手首を返し、袈裟斬りを仕掛けた。
そう、勇姫が負傷している右肩狙いだ。
…首への突きは布石か。
ずっと攻撃を躱してばかりだった勇姫が、ここで初めて炭治郎の木刀を竹刀で受けた。
パシッと乾いた音がした。
しかし直後に勇姫は身体を反転させ、炭治郎の刀は踏み込んだ分の己の力を利用される形で流されてしまう。
体制を崩した途端、背中に蹴りを入れられて前に転倒しそうになった。
「踏ん張れ!」
勇姫が叫ぶと、炭治郎はぐっと足に力を入れて倒れずに踏ん張った。
そしてそのまま次の動作で攻撃に転じる。
「全集中!水の呼吸、陸ノ型、ねじれ渦!」
炭治郎が広範囲の技を出してきたので勇姫も技を出す。
「星の呼吸、ゆらぎ!」
勇姫の竹刀は不規則に揺らめいて、ねじれ渦をスパーンと切り裂いた。
目を丸くする炭治郎。
連続で技を出す勇姫。
「星の呼吸、流星」
目にも止まらぬ速度で、炭治郎の懐に飛び込み、その喉元に竹刀をぴたりと当てた。
「…参り、ました。」
喉に竹刀を当てられたまま、炭治郎が言った。
勇姫はスッと竹刀を下ろして「ありがとうございました」と頭を下げた。
炭治郎も「ありがとうございました」と言って、腹部を押さえてその場に座り込んだ。
「大丈夫?」と炭治郎の側に勇姫も座った。
荒い呼吸の炭治郎。
勇姫は全く息も切れておらず、汗ひとつかいていない。なんなら午前中の汗がひいているくらいだ。
「…流石に、強いな。」
炭治郎が悔しそうに呟いた。
「まあね。でも炭治郎凄いよ。
まさか竹刀で受けることになるとは思わなかった。」
「いや、あれは卑怯な手だったからな…ごめん。」
「いいんだよ。相手の弱みをつくのは定跡。
よく考えた上の良い攻撃だったよ。」
褒められたが、炭治郎の心は晴れない。
深い溜め息をついた。
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鍛錬中の言葉が荒いのは、師匠の影響です。