第8章 鍛錬
「お待たせ!」
勇姫はすぐに戻ってきた。
「押入れにあったの、この前見付けたんだ。前に泊まってた人が置いてったのかな。勝手に借りちゃお。」
手には一本の竹刀を持っている。
「これなら、死なないでしょ。たぶん。」
にこりと笑う勇姫。「たぶんかよー!不確定事実なのーっ?やだぁ!」と善逸が騒ぐ。
「あ、炭治郎は木刀でどうぞ。
……なんなら、真剣でも。」
珍しく挑発するような発言をする勇姫。久々の刀に気持ちが高ぶっているようだ。
「……木刀でいかせてもらう。勇姫に真剣は向けられない。」
炭治郎は静かに答えた。
集中しているようだ。
二人は距離をとり、お互い「お願いします」とお辞儀をした。
先程の伊之助との戦いを見ていた炭治郎は、開始と同時に動き出した。
防戦一方になったら勝ち目はない。
炭治郎なりの判断だった。
いいね、と勇姫は口元に笑みを浮かべた。
「水の呼吸、参ノ型、流流舞い!」炭治郎はスピードの速い技を出すが、勇姫には当たらない。
それでも外した後に勇姫からの反撃にちゃんと備え、奇襲が失敗しても、炭治郎の体制が崩れることはなかった。
とはいっても、備えた所で攻撃を防げる訳でないが。
流流舞いをひらりと躱した後、勇姫は一瞬のうちに間合いをつめて薙ぎ払いに来た。
炭治郎は後ろ飛びのこうとしたが「遅い」と言われ、腹部に衝撃が走る。
身体がぐらっと揺れた瞬間、右足に一打を叩き込まれ、左肩にも一撃が入る。
耳元でヒュッと風を切る音がして、振り降ろされる竹刀をぎりぎりで躱した。
やばい、このままだと伊之助と同じだ。
堪らず炭治郎は大きく後ろに跳び、勇姫から距離をとった。
勇姫は集中は切らさぬまま、炭治郎を見つめ、一度攻撃を止めた。
考える時間をくれるようだ。
炭治郎は起死回生を考える。
とにかく勇姫は速いんだ。とんでもなく。
何か策を講じねば攻撃を当てられない。
ならば、と
炭治郎は地を蹴って勇姫へ向った。