第8章 鍛錬
鍛錬は裏庭で行うことにした。
羽織と上着を脱ぎ、白シャツ一枚になった勇姫が部屋から出て来た。
炭治郎も勇姫と同じ格好。伊之助はまぁいつも通り。善逸は鍛錬するつもりがないのか着物のままだ。
同じ恰好にも関わらず、自分のとは違う細い腰に、炭治郎の鼓動が跳ねる。
「さて…」と、草履を履きながら勇姫が口を開く。
「皆、朝ご飯は食べた?」
いきなりの質問に「???」となる三人。
「はぁ?食ったわ!それがどうした!」
伊之助が叫ぶと、「いつ?」と勇姫。
「えっと…一刻くらい前、かな。」
炭治郎が答える。
「じゃ、大丈夫かな。…いや、ね。」
一度言葉を区切った後、
「食べた直後だと吐くなって思って。」と勇姫がさらりと言った。
そして、
「私、実は…手加減がすっごく下手なの。
だから今まで殆ど格上としか手合わせしたことなくて。
怪我させないように、善処はするけど。」とテヘヘと効果音が付きそうに笑ってみせた。
発言内容と表情が釣り合わなさ過ぎて、炭治郎と善逸は恐怖を感じたが、伊之助だけは元気一杯奮起した。
「はぁーん?手加減なんかいらねぇっつーの!
俺だって、女だからって手加減しねえからな!怪我してもぐだぐだ言うんじゃねぇぞ!」
と拳を握って叫び散らす伊之助に、
「伊之助、骨折どこだっけ?」と問いかける勇姫。伊之助の叫びは聞いちゃいないようだ。
善逸が「肋」と答えると「了解」と返した。
「伊之助、素手でいこう。いい?」と勇姫。
「おうよ!」と伊之助。
「お願いします」と勇姫は頭を下げて、ザッと構えた。
途端に勇姫を取り巻く空気が変わった。
普段はまん丸の目が、すうっと細まり切れ長になる。
以前伊之助と口論した時と似ているが、比べ物にならないほどの殺気、だ。
あまりの圧に伊之助も構えをとったまま動けない。
炭治郎は息を呑んだ。
善逸は凄い勢いで炭治郎の後ろに隠れた。
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