第8章 鍛錬
早朝に蝶屋敷を辞し、勇姫は藤の花の家に向かった。
里を抜け、山を走り、昨日より速い速度で疾走した。
無論、夜平の案内の元に。
家の門前に着いた時にやはり息は切れていたが、昨日より少し楽な気がする。
かかった時間も短い。
汗を拭い、門をくぐる。
「只今戻りました。」
出掛けるときに「行って参ります」と告げたので、そう声をかけて屋敷に入った。
すると、ダダダと廊下を走る音が聞こえた。
「勇姫っっ!!!」
炭治郎が駆け寄ってきた。
「炭治郎!ただいま」
笑顔を返す勇姫に炭治郎は安堵した。
「おかえり勇姫。昨日帰って来なかったから心配したんだぞ。」
「ああ、ごめん。ちょっと用事が増えちゃって帰れなかったの。」
「そうか…、とにかく無事なんだな!はぁ…よかった……」
盛大に胸を撫で下ろす炭治郎に「???」となる勇姫。
え?そんなに心配すること?
一日帰宅しなかっただけで?なんで?
疑問が広がる。
そして、昔私の帰りが遅くなった時、やたら叔父に心配をされたことを思い出して合点がいった。
炭治郎、叔父さんみたいだな…
炭治郎の複雑な胸中まで思考が辿りつかなか
った勇姫は、そこじゃねえわという位置に結論を着地させた。
「心配かけてごめんなさい。ありがとう、炭治郎。」
かつて叔父さんにそうしたように炭治郎に笑いかける勇姫。
一日待ち侘びた笑顔を向けられて、炭治郎は途端に頬が赤らむのを感じ、
「いや、俺が勝手に心配してただけだから。」と誤魔化すようにそっぽを向いた。
するとそこへ「あ、勇姫ちゃん、おかえりぃ〜」と善逸が顔を出し、「わ、すっごい汗!俺に早く会いたくて走って帰ってきてくれたのぉ〜?」
とクネクネした。
炭治郎はそこで初めて勇姫の尋常じゃない汗に気が付いた。
勇姫は、あははと笑って「走って帰ってきたのはそうだけど、鍛錬だから。」と言った。
「鍛錬だったら、俺と勝負しろ!」
と、伊之助も顔を出した。
ややこしい奴が出て来た、と炭治郎たちは思ったが、意外にも勇姫は「ん、汗かきついでだから、いいよ!」と答えた。
「勝負じゃないよ、鍛錬だからね!」と言いながら、準備の為に自室へ入っていった。