第7章 蝶屋敷にて
――義勇さんは強くて素敵な方です。尊敬しています。
その言葉を廊下で聞いていた義勇。
しのぶへの用事が終わって勇姫に会いに来たが、部屋の中では己の名前が飛び交っており中に入れずにいた。
勇姫からの予期せぬ言葉に、気配が少し揺らいだ。
すると、それの僅かなゆらぎに「あれ?」と反応する勇姫。
扉に駆け寄ってひょこっと顔を出し、「やはり義勇さんでしたか!」と笑顔を見せた。
三人娘は勇姫にしてはまあまあな先程の発言を更に深堀りしようと考えていたが、当の義勇が現れたので、「きゃぁぁ!すすす、すみません!」と顔を真っ赤にして部屋から出ていった。
「義勇さん!お久しぶりです!」
勇姫はほぼ直角になる程頭を下げた。
頭を下げたまま、
「先日、負傷した私を運んでくださったのが義勇さんだったと聞きました。」
と続ける。
「お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。」
柱の忙しさは解ってる。
勇姫はずっと謝りたいと思っていた。
義勇は、
「たまたま近くで仕事をしていただけだ。問題ない。治ったのか。」
と、声をかけた。
勇姫は顔を上げ、「はい。もう大丈夫です。ご心配おかけしました。」と笑顔を見せた。
勇姫のこの態度と、この気配。
先程の言葉は、本当に額面通りそのままの意味だと義勇は確信した。
深い意味も恋愛的な意味も皆無だ、と。
勇姫の無事を確認し僅かに安堵の気配を漂わせると、義勇は「なら良い。」と言って踵を返した。
「本当にありがとうございました。」
勇姫がまた深々と頭を下げたのが、背中に伝わる。
義勇にとって勇姫は、配下の一隊士に過ぎない。
だが、義勇はわざわざ勇姫を指名して任務を共に行うことがある。
理由は単純。仕事をしやすいから。
勇姫の星の呼吸は、実はどの呼吸とも合う。
支援役で連れて行くと相当役に立つ。
他の柱たちが気付いていないので義勇が独占できているが、知られたら取り合いになるだろう。
義勇はまだまだ自分の秘蔵っ子として勇姫を側に置いておきたかった。
…ただ、理由は本当にそれ(仕事)だけなのか。
勇姫の先程の言葉に、何故心が揺らいだのか。
それは義勇にも解らなかった。