第7章 蝶屋敷にて
蝶屋敷に着いたのは昼過ぎだった。
道に迷ってなければ、半刻は早く着いただろう…
ぜぃぜぃ、と荒い息を門の前で整える。
袖でぐいっと汗を拭い、夜平にお礼を言って屋敷の門をくぐった。
玄関で「ごめんください」と声をかけると、アオイが出て来た。
「巽さん、お久しぶりです。しのぶ様から聞いております。」
テキパキと応対してくれるアオイに「お邪魔いたします」と丁寧に挨拶をして草鞋を脱いだ。
しのぶの部屋の前で「胡蝶様、巽です。」と声をかけると、「どうぞ」と聞こえた。
扉を開けると、笑顔のしのぶが居た。
「だいぶお疲れのようですね。また、走ってきたのですか?」
「かなり身体が鈍ってしまいましたので。」
「無理はいけませんよ。
身体は傷めつけるだけでは強くなりません。」
「…はい。肝に銘じます。」
「……本当でしょうか。貴女は無理が服を着て歩いているような気がしますけど。」
あれ、ちょっと目が笑ってないぞ、と勇姫はゾッとした。
その後しのぶは勇姫の肩の傷を診て、いくつか問診をし、順調ですね、と言った。
そして「では、これを。」と、漆塗の小さな箱を勇姫に渡した。
「ありがとうございます」と言って受け取り、勇姫も巾着から空になった箱を取り出して渡した。
「少し、配合を変えました。薬臭さが減ったと思います。」
蓋を開けると、爽やかな香りがした。
「わぁ、凄い!嬉しいです!ありがとうございます!」
しのぶは勇姫の反応に、満足そうに微笑んだ。
「あ、巽さん。この後お時間ありますか?」
診察が終わり、退室しようとした勇姫にしのぶが声をかけた。
大丈夫です、と答えると、
「では、お食事でもしてゆっくりしていってください。今日は冨岡さんもいらっしゃる予定ですので。」と言った。
「え!義勇さんが?!」
「はい。冨岡さんは巽さんの事を気にしておられましたから。」
元気な顔を見せてあげてくださいな、としのぶは言った。
勇姫はしのぶの言葉に甘えて、蝶屋敷でご飯をいただき、義勇が来るのを待つことにした。
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義勇ユメではありません…!
……たぶん!