第6章 内緒
ある日、朝早くに男子部屋に声がかかった。
「炭治郎、おはよう。起きてる?」
障子の奥から聞こえる、やや控えめな勇姫の声に「ああ。」と炭治郎からの返事。
障子が少し開き、そこには隊服を着た勇姫が座っていた。
初めて見る勇姫の隊服姿。
髪はいつも通り高い位置で結ばれているが、今日はそこに赤色の長い結紐が結ばれており、首筋まで垂れているその紐が髪と連動して揺れている。
隊服の上に着ている羽織は紺色で、裾にかけて黄色く変化していた。
見慣れた部屋着とは違い、隊服姿の勇姫は炭治郎の目にやけに凛々しく写った。
「朝早くにごめんね、炭治郎。」
「…あ、いや。大丈夫だ。…どこかへ出かけるのか?」
「うん。だから、今日はご飯一緒に食べられない。多分夜までかかる。
昨日言い忘れちゃったから、それを言いに来たの。」
「それだけ。」と言って立ち上がる勇姫。
「どこへ行くんだ。」
炭治郎が障子に駆け寄り、呼び止めた。
「胡蝶様の所へ。」
「胡蝶様…?」
「あ、炭治郎は知らないのかな。
胡蝶しのぶ様っていって、薬作るのが得意な方でね。私も前からお世話になってるの。」
「薬…?」
途端に心配そうに眉を寄せる炭治郎。
どこか悪いのか、と言いたげなその顔に、
「……古傷が、ちょっとね。あ、もう全然痛くないんだけどね。
お守り、みたいな感じで使ってるのがあって。減ってきたからそれを貰いに行くの。
ついでに肩も見てもらおうと思って。」
と笑った。
匂いで嘘はついてないと解ったので、「そうか、気をつけてな。」と炭治郎は言った。
「うん。」と勇姫は廊下を歩いて行った。
一日会えないのか、と思うと何故だかちょっぴり寂しくなった。