第1章 序
勇姫の記憶
……鬼だ。
これは、鬼だ。
目の前に、鬼がいた。
口と手を真っ赤にして。
一番下の妹の腸を食べていた。
勇姫は心も頭も停止してしまったように、何も感じられず、恐怖すらなかった。
鬼は妹を食べながら勇姫の側へ歩いてきた。
「なんだ、まぁだガキがいたのか。」
私も食われるのか。
勇姫はぼんやりとそう思った。
やめて、とも、助けて、とも思わない。
死ぬんだな、という事実だけを考えていた。
しかし鬼はちらりと外を見て、「もう夜が空けるな。」と言い、
「お前は食わなくていいや。
ガキを2匹食ったが、やっぱガキはあんまりうまくねぇや。お前も見たところチビすけだからな。
十六歳くらいになったら美味しくいただいてやらぁ。」
勇姫の顔を覗き混んだ。
「上玉に育ちそうだなぁ」
右の口角を上げて気味の悪い笑みを浮かべた。
そして思いついたかのように「俺の獲物だって印でもつけておくか」といい、勇姫の左手に爪を立てた。
勇姫の小さな左手に3本の線が入った瞬間、傷口からぽたぽたと血が滴り落ちた。
急いでいたのだろう、鬼はそのまま家を出てすぐに消えた。
勇姫はその場に立ち尽くしていた。
左手の怪我も、胸の痛みも、何も感じなかった。
むしろ、何故生きて、呼吸をして、心臓を動かしているのかが不思議だった。
ここで、自分だけが、何故。
夕方になり、近所の大人が見付けてくれるまで、家の中は刻が止まったままだった。
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暗いですね!(^_^;)
次で思い出終わりますので!
本編になれば、こんなに暗くはならないです!