第5章 黄色いのと猪と
ご飯が綺麗に空になった後。
勇姫は炭治郎と善逸に引き止められて、まだ部屋に居た。
食後のお茶を飲みながら、他愛もない話をしている。
ちなみに、伊之助は食べ終わったらすぐに「猪突猛進!」と叫んで部屋を出ていった。
「声だけ聞いてた時、いろんな名前が聞こえてきてさ、5〜6人くらい居るのかなって思ってて…」と勇姫が話して皆で笑っていた時、
不意に言葉を切った勇姫が「そうだ。ねえ、炭治郎。」と言った。
炭治郎が「なんだ?」と答えると、「あれ…」と部屋の隅の箱を指差す。
ああ、そうか。
炭治郎は勇姫の言わんとすることが解った。
勇姫程の実力者であれば、鬼の存在に気付かない訳がない。
「…あの中にいるのは俺の、妹だ。」
炭治郎は箱を見ながら答えた。
「そっか…成程。その子が禰豆子ちゃん、なんだね。
不思議な気配がする。
炭治郎の妹だから、優しい鬼なのかな。」
勇姫は何故、とも、鬼は殺さないと、とも言わなかった。
「夜になったら会えるのかな。」
「どうだろう。禰豆子は寝てる事が多いからな。昨日も起きてこなかったし。」
「いつか会いたいな」と微笑みながら箱を見つめる勇姫。
炭治郎はおそらく弟を亡くしている。
親も多分もう居ないのだろう。
…そして、妹は鬼に。
どれだけ絶望し、どれだけ辛い思いをしてきたのか。
私にも妹が居た。
でも、もう居ない。
…例え鬼になってでも、この世に存在していて欲しかった。
炭治郎の気持ちを考えると、とても口には出せない事だが、炭治郎と禰豆子がちょっぴり羨ましく思えた。
勇姫からの悲しみの匂いに気付いた炭治郎は、
「たまに起きるから。会ってやってくれ。」
と言った。
「……でも、夜でしょ?」
「え?それはそうだが…」
「私は、夜は男の子の部屋には来ませんっ!」
勇姫がからかい半分でそう言って頬を膨らませてみせると、
「!!!そ、そうか。それはそうだな。」
と、素直な炭治郎は、顔を赤くした。
善逸が面白がってニヤニヤしながら「うわ〜炭治郎やらし〜な〜」と言い、
勇姫もそれに乗っかって「本当、いやあね〜」と言えば、
炭治郎は「二人とも止めてくれっ!」と頭を抱えのだった。