第4章 緩やかな時間
そこへ、部屋の外から声がした。
「鬼刈りさま、お食事でございます」
障子が開くと、お婆さんの姿とお膳があった。
朝餉が運ばれて来たようだ。
勇姫が返事を返すより先に、「あ」と炭治郎が声を発した。
「そうだ、俺、一緒に朝餉を食べようと思って勇姫を呼びに来たんだった!」
「えっ?そうなの?」
「ああ。俺達の部屋で一緒に食べよう!な!」
「え、あ、ちょっと…」
炭治郎の中では共に食事を取ることが決定事項のようで、お婆さんに「俺達の部屋に運んでくれますか」みたいな事を嬉しそうに告げている。
「あ、ち、ちょっと!炭治郎!」
勇姫が大きな声を出す。
ん?と振り返る炭治郎。
「あの…私右手が使えないから食べ方汚くて…こぼしたりするし、食べるのも遅いし…だから…」
バツが悪そうに、しどろもどろになりながら話す勇姫。
しかし、「なんだ、そんな事気にするな。
負傷中なんだから仕方ないだろう。俺の仲間も食べ方が酷い奴がいる。大丈夫だ。」と問題ナシの太鼓判をぽんぽんと打ち込む炭治郎。
それでも首を縦に振らない勇姫に、
「俺は、ご飯はみんなで食べた方が美味いし楽しいと思うんだが…、どうしても…嫌か?」と悲しそうな顔をする炭治郎。
―――はい。
負けました。負けましたとも。
不承不承ながら、了解と告げると、本当に嬉しそうな顔をした。
…結構強引なんだね、炭治郎。
「では、皆様のところにお運びいたしますね。」
とお婆さんがお膳に手をかけた所を、「あ、いえ」と勇姫が駆け寄りながら制する。
「こちらで運びますので、大丈夫です。」
お婆さんの側にきちっと座り「美味しいご飯をいつもありがとうございます」と手を付いて深々と頭を下げた。
炭治郎は勇姫の膳に、小振りの土鍋が乗っていることに気が付いた。
箸が使えない勇姫は匙で食べられる特別献立になっているようだ。
成程。この膳は重い。勇姫が慌てて制した理由が解った。
お婆さんへの気遣いや、勇姫の礼儀正しさに炭治郎は感動した。
お婆さんが去ると、勇姫は炭治郎に「これ、運んでくれる?」と声をかけた。
「当然だ。」
と炭治郎は立ち上がり、ヒョイとお膳を持ち上げた。