第4章 緩やかな時間
翌朝。
部屋に向かって歩いてくる音が聞こえた。
文机に向かっていた勇姫は、ことんと筆置きに小筆を置き、手文庫を開けた。
足音が部屋の前で止まり、座る音。
「勇姫、起きてるか?」
弾むような炭治郎の声がした。
「起きてるよ。どうぞ。」
勇姫が応えると、障子がスッと開いた。
「おはよう、炭治郎。」
座ったまま、くるりと入り口の方へ身体を向けた勇姫に、炭治郎は固まった。
あれ、こんなに綺麗な子だったっけ…?
昨夜との雰囲気の違いに「えっ…」と小さく声を出し、慌てる炭治郎。
心なしか頬が染まっている。
「ん?どしたの?」
勇姫は炭治郎の動揺の理由が解らずに、首をかしげた。
その時、勇姫の頭の上で結ばれた髪の毛が動いた。
「…あ、そうか!髪か。」
炭治郎はようやく昨晩との違いに気付いた様子だった。
「何か違うと思ったんだ。今日は髪を結んでるんだな!」
なんだそんな事かい、と勇姫は思った。
というか、そんな明らかな見た目の変化、秒で解るだろう。
流石は炭治郎。
身だしなみに関しては、残念ながら偏差値2ぐらいである。
「あぁ、これね。」
勇姫は笑いながら左手で自分の髪の結び目を触る。
「腕が上がらなくて、まだ自分じゃ結えないんだけど、お婆さんにやってもらったの。
私、いつもはこんな感じで結んでるんだよ。」
そうか、と答える炭治郎。
勇姫に対する違和感が解決したので、すっきりしたみたいだった。
そして、満面の笑みを浮かべて、
「似合っているぞ。天女かと思った。」
などと、恐ろしい程の殺し文句をさらりと述べてみせた。
――どうやら彼は、恋愛偏差値も2のようだ。
これに対しては勇姫は、
「天女は言い過ぎでしょ。」
とケラケラ笑ってみせた。
――残念ながら、こちらの恋愛偏差値も2だった。
炭治郎が不意に放った殺し文句は、その殺傷能力を発揮する事なく、暖かな空気の中で消えていった。
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キュンキュン出来ない(笑)
二人には恋愛偏差値を上げる修行してもらわなければ!