第3章 語らいの中で
勇姫が庭へ視線を反らした後、
しばらく静かな時が流れた。
沈黙を破ったのは炭治郎。
「ん?…勇姫、眠いのか?」
「…え?」
「勇姫から眠い匂いがする。」
そんな匂いもわかるのか。
こりゃ何も隠し事できないな。
そしてこの面倒見の良さ。
炭治郎はきっとお兄ちゃんなんだろうな。
「ん、ちょっとね。
笑ったり泣いたり、疲れた、かな。」
勇姫は素直に答えた。
「よし、もう寝た方がいいな。俺も寝る。」
炭治郎は勇姫の頭からスッと手を降ろし、草履を履いた。
「話せてよかった。また、明日な。」
庭に立ち、炭治郎が勇姫に声をかけた。
「うん、また明日ね。
あ、炭治郎の友達にも会いたいな。」
「そうだな。明日みんなを紹介するよ。
…おやすみ、勇姫。」
「おやすみなさい」
帰り際、炭治郎は天を仰ぎ見た。
つられて勇姫も顔を上に向ける。
「…こんなにも、綺麗だったんだな。」
炭治郎は小さく呟くと、勇姫を見て「じゃ」と言って歩いて行った。
鬼殺隊士は夜に鬼と戦う。
ゆっくりと星を見ることなんてなかったのだろう。
炭治郎は、俺を頼れ、と言った。
――私も。
私も炭治郎に頼ってみたい。
…のかな。
人を頼るとか、どっちかっていうと苦手だけど。任務で義勇さんを頼るのは別として。
あまり人に寄りかかることはしてこなかった。
…と思う。
歩き去る炭治郎の後ろ姿を見ながら、勇姫はぼんやりと考えていた。
――――…もしかして、炭治郎となら…
いやいや、まさかね。
勇姫も縁側から立ち上がり、部屋へ戻って布団に入った。
人前で、あんなに笑ったのも、泣いたのも、いつぶりだろう。
感情の振り幅が最大から最大へと激しく動いた今夜は、なんだかとても疲れた。
勇姫の目蓋は自然と閉じていく。
炭治郎の笑顔、焦る顔、拗ねた顔、真剣な顔、ころころ変わる表情を思い出しながら眠りについた。
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縁側トーク終了。
炭治郎との関係を深めるも、同時に義勇寄り疑惑が浮上(笑)