第3章 語らいの中で
―――――炭治郎は言った。
「悲しい匂いがする」
「話して欲しいんだ。いつでも聞くから。」
何で
何でわかるの
どうして……
勇姫は赤い目から逃れるように目を伏せた。
左手の古傷を、着物の上から右手でぎゅっと掴む。
力を込めたことで肩の傷がズキッと痛んだが、左手の方がもっとずっと痛かった。
左手と心に深く負った、決して癒えることのない傷。
炭治郎は勇姫のそんな様子を見て、そっと勇姫の頭を撫でた。
「張り詰めなくて、いいんだ。」
その声はまるで心に直接響いてくるようだった。
頭に置かれた手の温もりと、炭治郎の優しい気配。
伏せられた勇姫の目から、何故かポロッと涙が溢れた。
「……反則。」
今度は勇姫が拗ねるように呟いた。
「何が。」
炭治郎がふっと笑う。
「全部。」
勇姫はぷいっと庭の方を見た。
涙を隠すように。
「そうか。」
炭治郎も勇姫の頭に手を置いたまま、庭にそっと顔を向けた。
まるで、泣けばいい、と言ってくれているようだった。
人前で泣くのは、これまた久々のことだった。
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