第3章 語らいの中で
「そ、そんなに笑わなくても…」
暫くすると炭治郎が拗ねたように言った。
目に涙を浮かべて笑う勇姫は、「ごめん」と着物の袖で涙を拭いながら、反省ゼロの謝罪をした。
「階級とか、先輩とか、気にしないで。
こんなの、鬼殺していればどんどん上がっていくものだし。
んーと、私は15歳、だと思う。
修行中とかあんまり歳数えてなかったからちょっとうろ覚えだけど、確かそのくらい。
炭治郎も同じくらいでしょ?だから敬語はいらないよ。」
にこりと笑いかけると炭治郎はホッとした表情を見せた。
本当のところ、もっと年下だと思っていたことは、そっと胸の内に置いた。
「そうか。良かった。」
二人で、ふふふと笑い合った。
「勇姫は強いんだな。匂いでわかる。」
「匂い?」
「ああ。俺は鼻が利くんだ。」
「へぇ、そうなんだ。不思議だね。」
「あと、優しい匂いもする。」
「優しい…そうかな。」
「そうだ。間違いない。」
何やら物凄く確信を持って、きっぱりと言い切っている。
これは訂正がきかないやつだね。
本当に不思議な子。
「人の感情にも匂いがあるんだね…知らなかった。考えたこともなかったよ。
炭治郎は、きっと繊細な子なんだろうね。」
勇姫がそう呟くと、炭治郎が視線を真っ直ぐに勇姫に向け、その赤い瞳で勇姫の漆黒の瞳を捕らえた。
風が吹き、空気がふわりと揺れた。
「繊細なのは、勇姫だろう。
……優しいけど儚い匂いがする。」
炭治郎は眉を寄せて、心配そうな顔をした。
そしてそのまま言葉を続けた。
「なあ、勇姫…勇姫が強いのは解ってる。
でも、勇姫が寝てる時、ずっと悲しい匂いがしていたんだ。
……だから、今じゃなくてもいい。話して欲しいんだ。いつでも聞くから。
勇姫が抱えてるものを何でも。俺が、全部聞くから。
俺はまだまだ弱いけど強くなる。
辛いときは俺を頼ってくれ。」
夜の空気に響く炭治郎の声は、どこまでも優しかった。