第3章 語らいの中で
夜は、人を多弁にする。
これは、星空の魔術――なのだろうか
勇姫から思慕の匂いがする。
優しくて温かい匂いだ。
炭治郎はそう思いながら、庭を見ている勇姫の横顔を見つめた。
「…冨岡さんと知り合いなのか?」
炭治郎が勇姫に聞く。
「んー、まぁね。
私、合同任務が多くてね。
義勇さんとも何度か組むことがあったから。」
庭に目を向けたまま勇姫は答える。
「冨岡さんと組んで任務って!
凄くないか?それ!」
炭治郎が声を上げると、勇姫は慌てて炭治郎の方へ顔を戻し、
「あ、いやいやいや!組むっていっても、やたら鬼の数が多い時とか、守る人が多い時とかの支援役だよ。
肩を並べて戦える訳じゃないよ…義勇さん強すぎるし。
一人任務のときはこのザマだしね。全然凄くないよ。」
と、苦笑いをして自分の右肩をちらりと見た。
「でも、冨岡さんと任務は凄いな。
足を引っ張らないことが大前提として必要だろうし、誰にでも出来ることではないだろう。」
凄い、を譲らない炭治郎。
ちょっと頭硬いな、この子。
そして炭治郎は、ふと何かに気付いたような顔をして勇姫に聞いた。
「…勇姫は、もしかして階級高いのか?」
「戊(つちのえ)だよ。」
「えっ!俺よりだいぶ上…そうか…勇姫は先輩だったのかぁ…」
いや、貴方、新人でしょう?
普通に考えて同期じゃない限りは全員先輩に決まってるじゃん。
天然なの?
ちょっと天然なのね。
「なんか俺、すみません。年下だろうなって勝手に思って馴れ馴れしく話しかけてしまって…先輩だとは………」
急に頭をかきながら、しおらしくなる炭治郎。
額には大粒の冷や汗。
目はキョロキョロと泳ぎ、完全に迷子だ。
その姿が妙に可笑しくて
可愛らしくて
そして、何故だか堪らなく愛しくて
勇姫は吹き出した。
「ぷっ!あははっ!
何もう急にしょんぼりじゃん!
あははは、面白すぎ、炭治郎!!」
爆笑し始めた勇姫に、目を丸くする炭治郎。
ポカンとする炭治郎を尻目に、笑いまくる勇姫。笑いすぎて振動が傷に響き、痛がるほどだった。
久々に勇姫は声をあげて笑った。
自分でも驚く程に。