第15章 悪意
あの飲み会から数日たった。
毎夜あの場所へおもむくがティアナは変わらず歌っていた。
しかし以前のように雑談をすることはなく、時間が来たら帰るだけ。宿舎へ送ることも頑なに断ってくる。何処かがおかしい。避けられている。
話しかければ答えるが必要最低限で食事の際も1人で俺が来るとそそくさと食事を終わらせる。
一体なんだっていうんだ。
ティアナはあれから、なるべく班長であるハンジやナナバ、などの古参兵からも必要以上近づかなかった。
「どうしたの?具合でも悪い?」と聞かれることもあるがその度にそうでは無いと答えた。
ティアナの態度の変化にみんなが気づいてはいるが、理由も相談も何もしないティアナを気遣っているのか、様子を見るに留まっている。
だが、ハンジ達には新兵の頃に戻ってしまったようなティアナの事を話したり推測したりと気にはかけている。エルヴィンからも様子を注意深く見て欲しいと言われてもいた。
あれから、喜ぶべきかトリシャから敵意はあるだろうけど部屋に押掛けるなんてことはなかった。だけど、嫌なうわさがコソコソと拡がって静かにティアナを疲弊させている。
曰く男なら見境ないとか、エルヴィンやリヴァイ、古参兵達が気にかけるのもそういった理由だと根も葉もない噂はエスカレートしていく。
そこにアベリア達も乗ったらしく女性兵達からは軽蔑の目を向けられ男性兵達からは邪な目で、時には最低な誘い文句すらでてきた。
ここで泣きつくのは簡単だ。けれどそうすれば噂は更に加速して真実になる。
「ねえ、ティアナ最近どうしたの?何かあった?」
「いいえ、何も無いですよ。ただ色々と学ぶことがあるだけです。」
「食事も一緒に取れないくらい?」
「今はそうですね。」
班長であるハンジに無礼ではあるが距離を保ちつつ毎日を過ごしている。
「はぁ。」
噂をたてたりする人達は無視するにかぎる。
反論や行動すれば余計に逆立てる。
分かってはいるものの、仲良く気にかけてくれるハンジたちに心配をかけてしまっているのも、また心苦しくはある。
ティアナは溜息を飲み込んで訓練に励み自分のストレスを発散させることしか出来なかった。