第15章 悪意
泣くだけ泣いたら頭が重く、急に冷えてきた夜風にブルッと鳥肌がたった。
今夜は歌う気にならない。多分もう少ししたらリヴァイさんが来るかもしれない。
どうしよう。きっとひどい顔してる。心配をかけてしまう。でも宿舎に今は戻りたくない。
「寒いなぁ」ハーっと両手に息を吹きかけ擦り合わせる。
もう少しだけ、もう少しだけここで落ち着いたら食堂で温かい飲み物を飲んで…お風呂に入って冷えた体も温めよう。
その頃にはトリシャも自室に戻ってるはず。
「ティアナ?」
食堂に軽い食事を取りに来たエルヴィンは1人湯気のたつカップを両手で持つティアナに声をかけた。
露骨に嫌な顔をするティアナに心の中で苦笑いするも、耳も鼻先も赤いティアナはいつもの澄まし顔とは違って幼く映った。
「1人か?」
「1人じゃなかったら怖いですね」
憎まれ口をたたくティアナは口元を隠すようにカップを持っている。
「君はハンジ達と飲み会には行かなかったのかい?」
「はい、お酒の席も大事なのは分かりますが飲めないので申し訳なかったですが、お断りしました」
「そうか、ところで頬が腫れているようだが?」
正直放っておいて欲しかった。トリシャの目や耳に入れば確実に勘違いに勘違いを重ねるだろう。
「なんでもありません。おそらく訓練で打ったのかも知れませんね。申し訳ありませんが明日も訓練で早いので、これで失礼致します。」
ペコリと頭を下げ目を合わさずに踵を返して数時間前には恐怖の場所でしかなかった自室に荒らされてなければ良いけど…と思いつつ気を強く持って戻るため足を進めた。
自室に戻ると滅茶苦茶に荒らされて大切なヴァイオリンは投げつけられたのかふたつに割れてしまっていた。部屋が多少荒れても片付ければいいだけ。だけどヴァイオリンは修理も出来ない位の損傷をうけている。当分はヴァイオリン演奏はできない。さっきまでは恐怖ばかりだったが、壊れたヴァイオリンを取ると悔しさが込み上げて持ち前の負けず嫌いがもたげた。
「こんなひどいことをするなんて」
ティアナにとっては罵声より、堪えた分これからの嫌がらせに負けないと誓った。