第13章 ヴァイオリン
あれから俺はティアナとの時間が大切になった。
夜道はあぶねえから、女性宿舎の少しだけ離れた場所でティアナを待ち、俺にとってもティアナにとっても特別な場所で特別な夜を過ごした。
帰りは送っていき(大丈夫、平気)と頑なにティアナは言っていたが俺がそうしたいから、そうしてるとわかると遠慮しなくなった。
歌、演奏の時も大事だが、迎え、送りの間の他愛ない会話も俺にとっては特別になりつつあった。
ある日、呑気にも程があるティアナはどこか思い詰めた顔をしていてらしくなかった。
「どうした。クソでも出ねえ面しやがって」
「もー、女性になんてことをいうんだろね!リヴァイは黙ってればモテるのに…」
「別にモテてぇなんて思っちゃいねえよ」
「結構モテてるのに勿体ない」
肝心なことから逃げやがった。だが、女心なんてのは知らねえからな。こいつが隠そうとしてるものを絶対に聞き出す。
いつものとおりの時間を共有し、他愛ない特別な時間を過ごしているところに、さっきの違和感をぶっこむ。まどろっこしいやり方じゃ言っても話してくれねえだろうからな。
歌が終わり、ヴァイオリンを取り出すが弓を弦に当てない。なんだ?と思っていると「弾いてみない?」
こいつは偶に訳のわからんことを言う。
理由はそれぞれだが、大抵しょうもないことだ。
「私が教えるから」
「お前、急にどうした?」
「…………」
「言えねえか?」
「……なの」
「あ?聞こえねえ」
「異動、異動になるの」
妙な態度の原因はこれか。
問い質すまでもなく自分から言い始めた。
この様子なら駐屯か、憲兵か?
「事務だって、、前線から外れる。絶対に戻るけど、、いつになるかは分からない」
「どこの兵団に飛ばされんだ?」
「調査兵団」
……こりゃ、混乱しすぎて何言ってんのか自分でも分かってねえな。
「確認だが、お前が飛ばされんのは調査兵団の事務官、でまちがいねえか?」
「そう。だからヴァイオリンも最後かもしれないから、」
「待て待て待て。同じ調査兵団なら問題ねえだろ。仕事の内容が変わるだけだ。」
「…」
「それに俺はヴァイオリン弾けねえし、弾かねえ。ティアナのヴァイオリンが聞きてえんだ」
そこまで話すとティアナの目から頬へボロボロ涙が零れ落ちた。