第13章 ヴァイオリン
「どうだった?」
リヴァイは言葉が出なかった。歌を歌っている時も苦し紛れに"悪くない"と言った。
俺は、これ以上の褒め言葉は知らない。
だから俺はこういうしかない。
「悪くねぇな」
俯いて呟く俺の声はこいつに伝わるか?
「ありがとう」
ロクな感想も言えねえ俺にティアナは満足そうに微笑んだ。
「もし、良ければ、、なんだけど。嫌なら言ってね」
「イザベルとファーランが好きって言ってくれた歌と演奏曲があるの。もし、いいならリヴァイにも聞いて欲しい」
俺は言葉をどっかに落としてきたらしい。
首を縦に降って肯定の意志を伝えるしか出来ねえ。
ありがとう。ティアナは満足そうに顔を綻ばせ、背をシャキと伸ばした。
♪
小鳥は鳴く、空を想って、小鳥は泣く、大切な事を忘れぬように。
力ある風に吹かれて飛び立てるのはいつ?
碧へ翼を広げて来るべき日を夢見る♪
歌は地下から地上に上がった、まるで俺達をうたってるようだった。イザベル、ファーランが好んだのも無理はない。
歌を聞き終わるとほんの少し哀しい、切ない感情が押し寄せる。俺達はずっと夢見ていた。そこまで夢を掴んでいたんだ。
今度は感想を聞くこともなくティアナはヴァイオリンを構え、最初から激しい旋律を止まることなく途切れさせることも無く刻んでいく。
そして演奏が終わると沈黙が流れた。
その沈黙は心地よく、余韻が俺を満たした。
「…これはね、あの二人のための曲なの」
何も言えなくなった俺にティアナはイザベルとファーランが如何に喜んでいたのか、有名な曲よりも気に入ってくれてた事を教えてくれた。
「そうか…」アイツらは、こんなに綺麗な音を声を聴いていたんだ。それを分かち合えるのは俺とティアナだけ。
「もっと、色んな歌や演奏を聴かせたかった」
「充分だ、アイツらに良くしてくれてありがとうな」
「リヴァイにも聴いて欲しいから、もし都合がつくなら。ここに来て欲しい。私はよっぽどのことがなければここで歌ってる。みんなに届くよう信じて」
普段の俺なら"馬鹿か"一蹴する。
だが、そうするにはティアナの音楽は脳と心に刻まれて忘れられない。
「来るなっつても、気が済むまでは来てやるよ」