第12章 エルヴィンの思い
エルヴィンは先程、自分が申し渡した言葉を反芻していた。デスクに肘を付き指を組んで、額を乗せる。
(これでいい。巨人に彼女が喰われない、これでいい)
自分の説得を決して受け入れないティアナの調査兵としての決意を崩した自覚はある。
兵員の命に優劣をつけたくはないが命の序列はある。
彼女の存在は兵団にとって”兵士ではない”方が兵団にに有利だ。
本当は退団させ、元の生活に戻したかった。
それを拒み、あくまでも前線にたつと言って聞かない彼女を何としても止めなければならなかった。
ティアナが新兵として調査兵の一員になっていると気づいた時は驚きを越え、戸惑いすら覚えた。
(ありえない、何故、どうして)
暫くはそう思い悩んだ。
ミケの鼻がティアナの存在を知らせなかったら、一新兵として訓練に励め。と言っただろう。戦えと言っただろう。
しかし、彼女は話は別だ。
呼び出す度に向けられる警戒心、拒絶の強い眼差し。
恨まれても憎まれても構わない。笑顔は望まない。
元の生活には戻らない。そう言うならば目の届く少しでも安全な場所で…俺のそばで。
トントン不意に叩かれたノックに「入れ」と簡潔な言葉をかける。
扉が開く前にエルヴィン・スミス分隊長として気を入れ直した。
「エルヴィン、先の調査についての、、おい、どうした?」
「なんでもない。」
「ティアナとハンジか?」
「…」
「まあ、衝突するのは時間の問題だった」
スンッと鼻のきく友人で部下のミケは何も言わずとも理解する。多くの場合助かるが時には厄介だ。
「それよりも用はなんだ?」
「この調査結果についての報告書にサインと内容に問題ないか確認したい」
「わかった、そこに置いてといてくれ」
「あまり気にするな。だが、お前のやり方は回りくどい」
「余計なことに気を回すな」
「そうか?じゃよろしく頼む」
意味ありげな言葉を残してミケは執務室から出ていった。
またティアナについての考えに耽りそうな思いを仕事へと切り替え目の前の書類へと戻した。
カーテンが揺れ、その間から訓練に励む掛け声が遠くから聞こえた。