第12章 エルヴィンの思い
ハンジさんの執務室に戻るととても心配そうな表情のハンジさんが「大丈夫?」と聞いてくるも全く大丈夫では無い。ティアナの青い顔を見て状況を概ね理解したハンジさんは「私が掛け合う。」と憤慨しているが、ハンジさんとて上司の"命令"に抗えない。意見は出来ても。
だが、ティアナの意志を尊重してくれる上司が居て自分の立場も顧みず部下の事を守ってくれる。
「ハンジさん、大丈夫です。平気です。」
ハンジは眉を顰め全く大丈夫じゃないティアナに何ができるかを考えた。
確かに事務方なら前線に立つことなく多少は安全だ。
だけど私はティアナが戦いたい気持ちも訓練も人一倍している事も知っている。
でも、きっとエルヴィンは自分の言葉を覆さない。
ティアナは異動になる。次の壁外調査前には事務官になっているだろう。
それをティアナも私も、嫌なほど知ってる。
兵士の基本、上意下達。
「ティアナ今日は戻っていいよ」泣きそうな顔で僅かな抵抗をするティアナ。でもこのまま仕事は出来ないだろう。
「嫌です。私は…」「いいから。エルヴィンには私からもティアナは渡さないって言ってくるからさ」
諦めを浮かべながらハンジと目を合わさず、執務室からティアナは退室した。
「エルヴィン、ちょっといい。」
「さっきの件なら終わった話だ」
「守りたいんだよね、でもあなたのやり方はティアナを傷つけるだけだ」
「それで良い。恨まれようが憎まれようとも」
「…そこまで想っているのに、どうして。他のやり方はなかったのかい」
「ない。わかったら戻れ。この話は以上だ」
取り付く島もなく書類に目を落とすエルヴィンには苛立ちを越えて怒りさえ覚える。
「そうかよ!あなたは後悔するよ!」
バンっと扉を叩きつけるように閉めたハンジにエルヴィンはこれからティアナとハンジから向けられるだろう怒りに深いため息をついた。
トボトボと兵舎から自室へ戻る足取りのティアナは、すれ違う兵士に挨拶も返せなかった。
調査兵団に入団しエルヴィンに自分のことがバレた時にいつかはこうなるだろう。と思っていたし抗えない事も知っていた。寧ろ今まで勝手が出来ていたのはエルヴィンが我慢したきたんだろう。
でも、退団はしない。前線に戻る。