第11章 夜の帳と命令
就寝点呼の10分前の鐘が鳴る。
今夜は思いの外、遅くなった。
ティアナは女性宿舎へと向かうがリヴァイも着いてくる。
確かに近くではあるけど男性宿舎は通り過ぎている。
「送る」
「えっ」
「さっき言ったのを忘れたのか?」
「…いや、ここまで来たら大丈、」
「うるせえ、黙って送られろ」
言葉だけだとぶっきらぼう越えて強引だが”悪くない"
「ありがとう」少し前を歩く背を見て言う言葉に返事はない。けど心地よい。
程なく宿舎近くに来たが、そもそもティアナは宿舎奥の自室窓からコッソリ抜けてきたのだ。
正面入口からは戻れない。
「えっと、実は部屋の窓から抜け出したから正面入口は…」
前を歩いていたリヴァイは呆れたような溜息をついた。
「わかった。本当に大丈夫なんだな?」
「うん!もう目の前だし、いつもの事だから」
不満そうなリヴァイにニカッと笑う。
「ゆっくり休め」
そう言うとリヴァイはクルリと向きを変え、男性宿舎へと戻って行った。
遠ざかる背を見送りたいけど、時間もないしリヴァイの気遣いもダメにしたくない。
ソロソロッと正面入口に立つ警備担当兵に見つからないよう、死角に沿って自室を目指す。
ほぼ毎日のように抜けているからお手の物。
無事自室に戻ると今夜、リヴァイが来て一緒に過ごした時間は初めは動揺、話しているうちに楽しく過ごせた。
また、明日も来てくれる。楽しみで仕方ない。
ティアナを(中途半端なのが不満だが)女性宿舎へ送り規律のその辺は緩い自分の宿舎へと戻る。
虚しさが自分を覆っていたのに俺はもう明日の夜が待ち遠しい。
イザベルやファーランが気に入ったのもわかる。
ティアナのような歌声は今まで聞いた事がない。
いつだか『音楽でやっていけるのに』とイザベル達は訊ねたという。そりゃ、あれを聞いたら兵士より音楽で安全に食っていけるだろう。寧ろ兵士より向いてる。そうしないのは何故か、疑問はあるがそこに拘るのは無粋だ。
点呼を終え、リヴァイだけが使用している大部屋の寝心地が良いとは言えないベッドのシーツをもう一度整えてからベッドに入った。脳が冴えて中々寝付くまで時間がかかった…